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「スライムならすぐに呼び出せるよ」
「呼び出せるって?」
「俺は召喚士だからな。やってみようか」
どうやらこの国には召喚士、というか魔法使いという存在がいないらしい。スライムは知能はほとんど無く、材料があるぞと核を揺らせば発生する。だから発動呪文も実に簡単。
『スライム出ろ』
冒険者ギルドのカウンターの上に核を置いて呟き水筒の水を垂らせば、水は一瞬むわりと膨らみ、そしてペシャリとひしゃげてただの染みになった。
「へぇ。水が勝手に膨らむなんて! これが魔法ってやつなのね。こんなに近くで見るのは初めてよ」
受付嬢は目を丸くした。こんな簡単な魔法で驚かれるのはなんだか馬鹿にされている気もするが、実際は失敗しているから何も言えない。
「おかしいな? 召喚に成功した感触はあるんだが」
「魔素が少なすぎて体を維持できないのよ。だからこの国でスライムを捕まえるのって土台無理なのよね。いないんだから。そんなわけで高額報酬が出るってわけ」
受付嬢は肩を竦めた。生存し得ないものをどうやって捕まえろっていうんだ?
「これがこの地特有の現象ってやつか」
「ねえ冒険者さん、今のって成功してればスライムが出来てたの?」
「そうだな。普通はできる、はずだ」
少々自信が無くなったが、スライムなんかで失敗したことはない。なんでまたスライムなんかに召喚枠をとっているかというと、スライムは構造が単純だから様々な溶媒が作れるんだ。あと、低コスト。
「じゃあクエストを発行するからお城に行ってみない?」
「お城?」
「この依頼の発注先はお城なのよ。スライムが欲しいんだって」
お城がなんでまたスライムを。
「難題のせいか受ける人もいないし駄目元よ。旅費くらいはギルドで出すわ」
「乗った」
結局は物見遊山のこと、あまりの魔素の薄さにとんぼ返りしようと思っていたが、首都たるカレルギアを無料で詣でられるのなら嫌やはない。
「おいタリアテッレ、はしゃぐな」
「だってこんなに近くで竜を見るのなんて初めてだよ!」
ギルドの用意した馬車、もとい竜車に乗り込んで驚いた。この国では騎獣は馬ではなく竜だそうだ。荒涼とした岩山や砂地が広がる大地を走るには丈夫な竜が適するらしい。俺は爬虫類がちょっとばかり苦手なんだよな。意思疎通できそうにない目をしている。
そんなこんなでカレルギアについたのは7日後だった。
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