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御曹司の花嫁は退屈
窓の外は、早くも木枯らしが吹き始め、風にあおられた冷たい小雨がパラパラと降り続く。
女中が飾ってくれた花瓶の花を、適当に画用紙に描いてみるのも、お友達へ手紙を書くのにも、もう飽きた。
手元に置いているのは、今流行っている雑誌、『月刊 少女倶楽部』。
憂鬱にため息をつきながら、すでに最初から終わりの頁まで目を通した中身を、再び読むことなく流すようにめくる。
「特集記事って書いてるから、期待したのに」
今月号は、『男性を虜にする淑女の嗜み』なんて、刺激的な見出しだった。
私の密かな悩みを解決できるかと思っていたのに、書いてあったのは、化粧や髪型の最新情報や、おしとやかに振る舞う行儀作法についてだけ。
私の知りたい夜の情報なんて、一つも書いてなかった。
雑誌を再びテーブルに置き、お義父様が、私のために取り寄せてくださった、イタリア製の瀟洒なソファーから立ち上がると、風で小刻みに揺れる窓辺へ寄った。
私、一井 櫻子は、もう一度大きく息を吐いて、西洋ガラスの窓を曇らせる。
そして指で、『ふじたか』 『さくらこ』と並べて書いた。
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