別々の部屋

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 引き締まった藤孝様の胸の中は、ドキドキした。  女学校のお友達とも、『S(エス)ごっこ』と称して、女同士で抱き合ったりしていたけれど、やっぱり、男性と女性とでは身体が違うんだと、改めて思う。 (※大正時代当時、女性同士の恋愛のことをS(エス)と呼んでいた)    藤孝様、あの続き……してくださらないのかしら?  男女の交わりは、まだ出来ていないと、おっしゃっていたものね。  指で触れあうだけでは、まだ足りないんだわ。    藤孝様は、私の長い髪を()でる。  髪を触られるだけで、胸が高鳴った。 「櫻子さん、まだ髪が濡れてるよ。  風邪をひいてしまう」  藤孝様は私から離れて、タンスの引き出しから、きれいなタオルを出した。    ……もう、髪なんて、放っておいても乾くのに。    優しく抱きしめられて、私の気持ちが盛り上がっていたところに、本人から水を差される。  まじめな夫の藤孝様は、こういう時、胸の底から湧き上がるような、ムラムラとした気持ちにならないのかしら?  私だけ?  少しだけ、淋しい風が胸の奥を吹き抜けた。 「……お勉強のお邪魔でしたわね。  ごめんなさい、失礼いたしました」  恥ずかしいような、切ない気持ちになり、なぜか涙が出そうになる。  私は、熱くなってきた目頭をタオルで隠し、自分の部屋に戻ろうと藤孝様に背を向けた。 「だめ。 櫻子さん、待って」  藤孝様は、私の浴衣の(たもと)を掴み、私は再びその胸に抱きしめられる。  えっ、藤孝様?
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