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大正八年の七月吉日。
私、櫻子と藤孝様は、多くの皆様からの祝福を受けて、結婚。
結婚式をしたのは、藤孝様が一高(※旧制第一高等学校の略。お金持ちのエリートが通った)を、ご卒業なさった数日後。
折しも、帝大に入学する前の、ゆとりある夏休み中だった。
(※大正九年までは東京帝国大学は九月入学。大正十年から四月入学に変更される)
藤孝様が休みの間は、とっても楽しかった。
百貨店でお買い物したり、おいしい洋食のポークカツレツ(※とんかつ)を食べに、連れて行ってくださったり。
藤孝様の妹で、私の憧れの方である撫子様や、恋人でいらっしゃる青木様と一緒に、アイスクリン(※アイスクリーム)を食べに行ったこともあった。
素敵な背広(※スーツ)姿の、かっこいい藤孝様に合わせて、洋装のワンピースでおしゃれして、昼間の太陽と共にキラキラと輝いているようだった、十五歳の私の夏。
(※大正八年当時の結婚年齢は男性は十七歳以上、女性は十五歳以上だった)
夜の憂鬱を隠すように、私と藤孝様は、毎日のように一井家所有の豪華な自動車に乗って、行ったことのない所へ、たくさんお出かけした。
だけど、九月から学校が始まると、藤孝様は一気に忙しくなる。
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