別々の部屋

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別々の部屋

「えっ? えぇーっと?   櫻子(さくらこ)さん?  何? 何のことなんですか?」  風呂から上がって、長い髪が乾ききっていないまま、藤孝(ふじたか)様の部屋へ入り込んだ。  私と藤孝様の部屋は隣同士。  帝大をご卒業なさるまでは、夜間に勉学に励まれることも多いとのことで、別々の部屋を用意されている。  それは遠回しに、藤孝様の勉強を、ジャマしてはいけないという事なんだろう。  不躾(ぶしつけ)に部屋のドアを開けた私は、やってしまったと後悔しながら、モジモジと話した。 「ですからっ……あの……ワタクシの、あの部分はヘンですから、見せたくないのです」 「……? あの部分?」  藤孝様は首をかしげて、大きな勉強机から離れて、私に近づいてくる。  五尺八寸(※約175㎝)もある、すらりとした長い肢体(したい)に、均整のとれた小作りな顔。  キリリとした一文字眉が男らしくて、上品な口元はキュッと結ばれている。  藤孝様のお顔が、私は好き。  優しい微笑みを浮かべて、私に尋ねるような表情で見おろされた。  あぁ、なんて藤孝様は素敵なの。  それなのに、を見ないで下さいなんて、部屋に飛び込んできた私はなんて、はしたない女の子なのかしら。
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