赤井の中身

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赤井の中身

あぁ、熱い… マズイなあ、熱出たな。 酔ってるだけかな… わたしはあのまま寝てしまったようだった。 いつの間にかベッドにいた。 のどが渇いて、熱く重い身体を持ち上げキッチンに向う。 赤井は…もう帰ったか… 結局、話はあんまり聞かなかったな… 後の方は記憶がない。 水を飲んで部屋に戻った。 少し汗をかいたから上だけ着替えるか。 そう思ってもう一度立ち上がろうとするけど身体が重くて立てない。 もう、いいか… わたしは部屋の床に寝転んだ。 ああ、さいあくだ… …水、もう少し飲めば良かった… 朦朧としてると、口から冷たい液体がわたしの中に入ってきた。 少し甘くて染みるように喉に落ちていく。 なんだろう…喉から胃にかけて冷たくじんわり広がってとても幸せな気分だ… 気がつくとわたしはまたベッドにいた。戻れたのか・・・ まだ少し軋む身体を起こすと、熱は逃げていて、身体がだいぶ楽になっていた。 あれ、下がった…かな… あぁ久々にヤバかった。 汗びっしょりだ。熱、全部抜けたか。 ホッとして起きようとした私は、すぐそばで丸まって寝ている赤井を見つけた。 部屋でいつもみんなが使う肌掛けや毛布と、自分の上着をかけて、ワイシャツのままベッドの横に包まって寝ていた。 あの時の毛布もある。 洗濯して赤井の匂いが消えた毛布は、あれからただの布切れになっていた。 ぼんやりと見ていると、ガバっと赤井が起きた。 すると無言で近寄ってわたしの額に手を当てた。 「よし」 と、言ってテーブルに置いてあるスポーツドリンクを取ってくれた。 「なんで?帰ったんじゃないの?」 「いいから、飲んで」 赤井はわたしの質問には答えず、キャップを取ってペットボトルをわたしに渡した。 一口飲んで気が付いた。 あ…これ…もしかして… 「先輩風邪ひいてたの、気づかなくて、ごめんなさい。途中で寝ちゃったのかと思ったら、バタってなっちゃって、熱くて、めちゃくちゃびっくりした」 赤井がなんかいっぱい喋ってる。 「とりあえずベッドに寝かして、コンビニ行って飲み物とか買ってさ、戻ってきたらまた倒れてんの、ヤバいと思ってもっかい寝かそうと思ったらさっきより熱あって、水、水、とか言ってんの。だからコレちょっとずつ飲ませてさ、つーか超ムズイ、ひとに飲ませんの」 ああ、やっぱり、この味か… 赤井は昨日よりずっと人間ぽかった。 すごいいっしょうけんめい喋ってるな。 「赤井くん、ありがと。これ、覚えてるよ。なんか冷たくて気持ちいい甘いやつが入ってきて、幸せな気分だった気がする…」 のどがカラカラで、とりあえずもらったボトルを一気に飲んだ。 飲み終わった途端、なにかおおきな塊がわたしにぶつかってきた。 「わっ」 と思わず声が出てしまった。 あれ、赤井がわたしに抱きついている…のか? 「何してんの?」 「黙って」 なんだと? 「は?何してんの?」 「うるさい、黙って」 赤井、どうした。 「ちょっと、ほんとに、困るんだけど」 「すき」 すき? 「ちょっと、離してよ」 「だめ、すき」 これはマズイ。 心臓が、わたしの心臓が。 あわててわたしは適当にまくしたてる。 「いや、マジで。汗だくで気持ち悪いし。あとなんか知らんけどノーブラっぽいから、マジで離して」 パッと赤井が手を開いてバンザイの形になる。 そして両手で顔を隠した。 童貞かよ。 しかし、なぜかわたしも心臓が弾けそうだ。 ふらふらと部屋を出て、着替えを持ってからシャワーを浴びた。 下着、無意識で取っちゃったんだろうか。苦しかったしな… 着替えてから部屋に戻ると、赤井はまだ顔を隠している。 「もう着替えたよ」 赤井は手を外した。 わたしはお湯を沸かして紅茶を入れた。 あたたかい紅茶を2つ、カップに入れてテーブルに並べる。 「どうぞ」 赤井はだまってカップを取って一口飲んだ。 「すき」 「うん、さっき聞いた」 「なんで?」 「わかんないけど、すき」 わかんない、か。 「甘えたいだけじゃない?もうちょっと冷静になって、考えて」 「ちがう。それに、考えてだめなら動けって言ったの先輩じゃん」 あーそういう…そうか、そういうことか。 「困ったな、それはダメだね、そもそも、彼女いるじゃん」 「いない、もういない」 いない?いつの間に? 「いなくてもダメだね、困る」 「嫌い?俺のこと」 俺呼び、定着したのか。僕って言ってたのに。 「後輩としてなら、でもそういうのは違うんじゃ…」 じゃあ、 と、赤井は強く言った。 「じゃあ、なんであの時触ったの?俺のこと、なんで触ったの?」 ああ、赤井の中身が出てきちゃった。 わたしはあの日の自分の行動を後悔した。
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