episode.1

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episode.1

学校のチャイムが雨の音より嫌いだ。きーんこーんかーんこーんと重たい音で僕の安眠をかき消すからだ。 しかし、もう一つ僕の安眠を妨げるものがいる。 「佐賀、お前いつまで寝てるんだよ」 前の席の矢田は机に突っ伏していた僕の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。朝からセットしたのに、ぼさぼさになってしまった。 「やめてよ」 「見事に鳥の巣だ、ははっ」 何がははっ、だ。ショートカットは逆にロングより直すのが手間なのに。 「それより次体育なのに着替えなくていいのか?他の女子はとっくに移動してるけど」 「それを早く言えよっ」 矢田は僕が慌てて準備するのをにやにや眺めている。 「これだから男は嫌いなんだ」 「出た!佐賀の口癖。良くないぞ、それ」 矢田がさらに僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。自分でも少し差別的だとは思っている。だけど、つい男嫌いな自分が顔を出してくるんだ。 「起こしてくれてどうもっ」 嫌味ったらしくお礼を言った後、僕は急いで女子の更衣室へ行き、なんとか授業に間に合った。 「遅かったね」 整列してから美空が後ろから僕をつんつんと突いて言う。 「せめて声くらいかけてほしかった」 「ごめーん。気持ちよさそうに寝てたから。それに矢田くんが起こしとくよって言ったから」 ツインテールを揺らし、ころころと笑って謝る。仕草も言い方も可愛い。 「矢田は後で倍にして仕返しする」 「もー許してあげなよ。彼氏じゃん」 「彼氏じゃないっ」   どうして周り人達は僕と矢田をくっつけたがるのだろう。日頃からちょっかいばっかりかけてくる男。友人ですらない、あいつは僕の敵だ。 「れーなは可愛いなあ」 「ちょっと馬鹿にしてるでしょ」 でも美空の麗奈をれーなと伸ばす言い方が実は好きだったりする。 「まあ、夫婦喧嘩も程々にね」 不服だったけれど、下手に何か言うとまたからかわれるから黙っておくことにした。
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