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episode.2
小さい頃から写真が好きだった。フィルター越しに見る景色のほうが、僕が普段見ている世界よりずっと綺麗だと思う。
写真部のコンクールのために校内を歩き回っていたら、花壇にてんとう虫がいるのを見つけた。たんぽぽの花びらの上でじっとしているてんとう虫。
僕は飛び立つ瞬間を撮ろうと思ってそばのベンチでぼうっと待っていた。
「さーが、なにしてんの?」
後ろから声がするので振りかえったら、矢田がいた。バスケ部のユニフォームを着ているから、おそらく部活中なんだろう。
「何もしてない」
「カメラ持ってるから写真部の活動中なんだろ?で、何撮るの?」
一眼レフ持ってるから、何してるかばれるのはわかっていた。そして矢田は僕の隣に図々しく腰掛けた。
「てんとう虫が飛ぶシーンが撮りたいから待ってる」
「てんとう虫?それなら葉っぱ揺らしたりして飛ばせばいいんじゃない?」
そう言って花壇の方に近づこうとするのを止める。
「可哀想でしょ。それにあいつが自分で飛び立つ瞬間が撮りたいから」
自分でも変なこだわりだとわかっているから、どうせ馬鹿馬鹿しいとでも言うんだと思って矢田の顔を仰ぎ見ると、優しい顔をしていた。予想外の顔に少しどきっとする。
「俺、佐賀のそういうところ、好きだよ」
「……僕は矢田のそういうところ好きじゃない」
軽々しく好きって言うのは軽い男の証拠だ。だからクラスの女の子に人誑しだって言われてるんだ。
矢田から視線を外し、てんとう虫の方をちらっと確認すると今にも飛びそうだった。やばい、と慌ててカメラを準備する。
「あ、見て。飛びそう」
「わかってる」
そして飛び立った瞬間カメラをパシャパシャと連写する。
「どう?うまくとれた?」
「……見て」
確認すると確かにうまく撮れていたけれど、飛ぶときに羽を広げてる姿はあんまり可愛くなかった。
「うーん……微妙だな」
「うん。また別のやつ撮ることにする」
次のコンクールまで日数はあるし、まあいいか。
「そろそろ部活戻るわ。部長に怒られそうだし」
立ち上がって伸びをした矢田は僕の頭をくしゃっと撫でる。
「いい写真撮れたら見せてくれ」
「やだ」
「ははっ、じゃあな」
走り去っていくや他の背中を見ておもむろにパシャっと撮る。
赤いユニフォームを着ていたからか、少してんとう虫に似ている気がした。
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