冷たくも温かい思ひ出

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 私達家族の乗る車が山々に挟まれた高速道路を走っていく。普段の里帰りで見る風景は山紫水明たる美しい山々なのだが、今回は違っていた。 山白水明(さんぱくすいめい)たる美しい山々なのだ。陽の光と山の木々の緑青が混じった紫にかすんで見える山は微塵も見えない。祖父の葬儀が終わった後より降り出した雪が山々を覆ってしまったのである。 勿論、道路も雪に覆われて真っ白で鼠色のアスファルトは微塵たりとも見えなくなっている。前の車が作った轍も雪が深くタイヤがアスファルトと接地することはなかった。  やがて、前の車が止まった。運転する父は困ったようにブレーキを踏んだ。 「困ったな。立往生になっちまったよ。ちきしょうが」 父の悪態を聞いた私はフロントガラス越しに前を見た。そこから見えていたものは延々と百足のように連なる車たちの車列であった。 そう、雪で車が立往生したのだ。私達が帰路に就いた時間ぐらいから冬型の気圧配置が強まり雪で大荒れの天気になり、県内に大雪警報が出されたのである。  私達が家路に就いたのと同時刻、高速道路では雪による交通事故が複数件発生したために通行止めを開始。 だが、私達家族の乗る車は通行止めを開始した後の高速道路に入ってしまっていた。高速道路上ではそんな車達が集まり、雪で動けない程の渋滞になってしまったのだった。 私は雪による立往生を「ただの渋滞」であると思っていたため「暫くすれば動くだろう」と気楽に考えていた。  祖父の家から、私の家までは高速道路を使えば二時間ぐらいかかる距離である。葬儀が終わりすぐに帰路に就けば二時間半から三時間を目安にして家に帰ることが出来るはずだった。 しかし、今回は雪の立往生に巻き込まれたために途中で車はストップ。二時間が経過しても、インターチェンジから数キロしか離れていない場所までしか進むことが出来ないのであった。地図で見れば、全行程の一割も進んでいなかった。 私は地図を片手にゲンナリとした口調で父に尋ねた。 「ねぇ、いつ動くの?」 「知らん」 父はラジオを点けた。ノイズ混じりの交通情報が流れてくる。私達のいる高速道路でスタックした車があるとか、トラックがスリップしてスタックしたなどと穏やかなものではなかった。話の流れから言ってこの渋滞の原因の一端だろう。 その当事者には申し訳ないが、聞いているだけで気が滅入るというもの。 父はラジオを切った。
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