桜が丘小探偵日誌

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          1  亜矢は非常に困っていた。いや、追い詰められていると言った方が正確かもしれない。  『ジャックとまめの木』の読み聞かせは最初の山場に差し掛かり、二年一組の児童二十八対の目は魅入られたように亜矢の持つ絵本のページに注がれている。  「なんという大きな男でしょう」  読みながら掠れそうになる声を励まして読み続ける。  「なんという大きな口でしょう、なんという大きな手でしょう、なんと醜い大男でしょう。ジャックは‥」  少しだけ早口になったかもしれないけれど、何とか調子を変えないように次のセンテンスに移る。  次のページを繰る時チラッと見た担任の白川先生は、さっきと同じ姿勢でつまならそうに窓の外を眺めていた。  (はーよかった!)  亜矢はほっと胸を撫で下ろす。  (気を悪くしているようではない。ていうか全然聞いてないのかもしれない)  いつもは、つまらなそうに横を向いている姿を見てちょっとムッとするのだが、今日ばかりはそれがありがたい。背を丸めて座っているが、立ち上がったら身の丈優に百八十五センチを超える白川先生を再びチラッと見てから、亜矢は次のページを読み始める。  (しかし読む本を決めるまでに色々考えて、準備万端整えて選んだはずなのになんでこんな事態が起こるかなぁ)  自分のうっかりさ加減に疲れてしまう。  
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