みっともない失恋

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みっともない失恋

ところが天音のこころを激しく揺さぶる出来事が起こってしまった。天音と同じ部活の同級生が、源くんと付き合い始めたのだ。彼女は舞台運がなくて、スタッフに回されてしまうことの多かった子で、部員時代は散々辛酸を舐めたものの、見た目が悪いわけではなかった。かと言って、特別に美しいわけでもない、と天音は思っていたけれど。 小夏というその女の子は、たまたま源くんと電車で乗り合わせることが多く、そうしているうちに話をするようになり、お付き合いが始まったのだという。 天音の高校はふたつの路線の駅の中間にあり、それぞれの路線から半分ぐらいずつ、生徒が通っていた。天音と小夏は路線が違う。天音が電車で源くんと乗り合わせることは、絶対にありえないのだった。 嫉妬、という感情を、天音は初めて味わった。たまたま電車が同じだっただけなのに、そんなことで簡単に源くんと付き合えてしまうの? 小夏はほとんど舞台にも立てていなかったのに。 源くんの情報が、いまさらながらにいろいろ入ってきた。 源くんは医大を目指しているらしい。源くんの祖母が産婦人科医で、その病院を継ぐつもりなのだそうだ。そもそも源くんの通っている男子校は、なかなかのお坊ちゃん高校だったのだ。修学旅行はハワイだったらしい。こっちは京都、奈良、神戸だったのに。 天音は中学のときも修学旅行は京都、奈良だったし、そもそも母の実家が京都にほど近い大阪の高槻市だったので、そんなところ、いつでも行ける場所なのだ。 住む世界がそもそも違ってた。源くんを奪い取りたいなんて発想は、当時まったく浮かびもしなかったし、ふたりが別れればいいのに、とも、特に思わなかった。天音はただただ恥ずかしかった。無邪気に源くんに憧れて、きゃあきゃあ騒いでいた当時の自分が。 自己肯定感の低い天音は諦めが早い。源くんにそんなに興味なんてなかったよ。そういう振りをして強がるのが精いっぱいだった。
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