ろくでなしのセリフ

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ろくでなしのセリフ

それに天音には、そして小夏や源くんやほかのひとにも、いまやらなければいけないことがあった。もちろん受験だ。こればっかりは、やるべきときにやらないと、後になって後悔しても遅いのだ。 天音の受験の話は後回しにして、さきに源くんと小夏の話をしようと思う。受験の終わった三月、ふたりは別れた。源くんは受験に失敗していた。医大だから、そんなに簡単にいかないのかもしれなかった。 でもふたりが別れたのは、それが直接の原因ではない。久しぶりに顔を合わせた小夏に、源くんは浮かない顔で言ったのだ。 「受験に失敗した。落ち込んでるから、ヤラせて。」  なんという言い草だろう。もちろんいまならばわかる。源くんはろくでなしだ。これは小夏にとっての初めてだし、ふたりにとっての初めてなのだ。憂さ晴らしにやるようなことじゃないだろ。ひとりでオナニーでもしてろってんだ!  でも当時の天音にとっては、恋愛もセックスも、あまりに遠い世界の事柄で、全然ぴんときていなかった。小夏は源くんの一言に、あっさり恋に見切りをつけた。 ところが、天音のなかの源くんは、そんな話を聞かされたあとでも、ずっと遠くにきらきら輝く、憧れの存在に変わりなかったのだ。  いずれにしても、天音たちは高校を卒業する。小夏は理系に進学するし、源くんとの淡いつながりの糸も、必然的に切れることになる。なる、はずだった。  ところがそれから随分経ってから、天音は改めて、今度は確たる実感を伴って、源くんがろくでなしであることを思い知ることになるのだ。
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