身勝手で卑怯な男たちからの解放

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身勝手で卑怯な男たちからの解放

高校を卒業して、思いもよらず訪れた幸運もあった。天音は、中学、高校とひたすら被害に遭い続けてきた痴漢から、完全に開放されたのだ。  もっとも、電車内はちょうどラッシュの時間に当たるので、高校通学時とはくらべものにならないほど混雑している。座っているひとに気を使いながら、目の前のガラス窓にべったりと手をついて、足はほとんどつま先立ち、ひとに押されて足には体重が掛けられないので、両手で体重を支えているような状態が三十分も続くことも、珍しくなかった。  それでも、遭わないのだ、痴漢に。  天音はやっと気づいた。世の中には、制服を着た女の子を触りたい、と考えている男がとてもたくさんいて、そのなかの何割かは、思うだけでなく、実行に移してしまうのだと。  天音がとりわけ狙われたのは、可愛かったからでも、スタイルが良かったからでもない。おとなしそうだったからだ。思い出す度に、その理不尽さに怒りで震える。  一番痴漢に狙われやすいのは、意外なことに、ドアの脇だ。降りていく乗客のなかに彼らはいて、ばっと触って、逃げるように降りてゆく。向こうだってつかまりたくないのだ。一連の動作はとてもスピーディーで、似た色のスーツ姿に紛れ込み、あっという間に消えてゆく。  欲望を押さえられない、卑劣で卑怯な男たち。天音は十四回も痴漢に遭っていた。誰ひとりにも、罰をあたえられなかった。  それが、予備校に進学した途端に、ぱたっと止んだのだ。
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