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水位は見る間に腰の高さまで到達したので、俺は山猫さんの手を引き、国道に出る三段の階段を登った。
ズボンが吸った水はいつもより重かった。滴り続ける濁水を迷惑がる通行人はいなかった。
「鯊も人間も自動車もないんだ」
俺は理解した。同時に無くなった物をもう一つ思い出した。月、だ。
幸い、スマホはアノラックの内ポケットに入っていたので無事だった。俺は画面を山猫さんに見せる。
「見て下さい。不幸自慢と云う訳では無いんですが、俺はもっと沢山の生物を殺して、います」
指を上下に動かし、更新する度に、フォロワー数やフォロー数、過去の投稿のインプレッション数が減っていく。
指を横に動かし、タイムラインを開き、更新。こちらもやはり同様だった。
「どうして、それを、私に…?」
「諦めが付いたからです。覚悟とか眼差しとかじゃぁない。もう結果は出来ていて、俺はその結果までの経過を更新することで観察するしかできないって諦めが…!……これをあなたに見せたのは、泣き止んで欲しかったからです」
水位の上昇は止まり、今まで見た事のない大きさの水溜りがあった。
雪が降りそうで降らない寒さが、濡れたズボンを凍えさせた。
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