嫁入り

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「ほらっ、お父さんもお母さんも、娘の嫁入りなんだからもっと喜んでよ! 心配しなくても大丈夫。龍神様も、私の溢れる色気で悩殺してくるからさ!」  最後のお別れだって言うのに、辛気臭いのは性にあわない。  イヒヒっと笑ってお色気ポーズを取ってみせると、見ていた村のみんなが泣きながら笑い出した。  そうそう、こうでなくっちゃ。  みんなを悲しませるために、嫁に行くんじゃないんだから。 「じゃあね、みんな! 雨が降ったら、私に感謝してよねー!!」  大きく腕を振ってから、貢ぎ物がふんだんに積み込まれた舟に乗り込んだ。  別れの言葉を背に受けながら、舟はゆっくりと動き出し進んで行く。  振り返ってみんなの顔を見納めておくべきかな?  いや、やっぱり止めておこ。  だって振り返ったりしたらきっと、せっかくの化粧が台無しになるもんね。ぐっちゃぐちゃの崩れた顔で龍神様に会ったりしたら、「醜い顔の嫁などいん! 別の女を用意しろ」とか言われたら悲惨だ。  想像したら可笑しくなってきて「ぷっ」と小さく吹き出すと、船頭をしているおじさんが憐れむような顔でチラリと見てきた。  あ、これ。恐怖で頭がおかしくなったんだって思われたな。まあいいか。  龍神様がいるのは村のすぐ近くの洞窟の中。  その洞窟は、海岸から少し沖に進んだところにある小さな島にあって、海から直接舟で入って行ける。
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