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「何よ口頭って。家に帰って自分でするの? 何なら他の子呼んであげようか?」 「あはは、そのー。今日はそう言う気分じゃなくなったのでもういいです……」  何やってんの私ー!  これじゃあ収穫ゼロだ。泣けてくる。  隣で事の顛末を見ていた颯懍が、小さくため息をついて立ち上がった。 「もういい。泰然、帰るぞ」 「はっ、はい!」 「えー、もう帰っちゃうの? 折角久しぶりに会ったのに」 「人を喰わないのは良いが、自分の体も大事にしろよ」  颯懍は滋養強壮に効く丸薬の入った袋を紅花に投げて渡すと、扉を開けて出ていった。 「ふんっ、精気を分けてくれないくせによく言うよ」 「それでは紅花さん、僕も失礼しま……っ?!」  去り際に、股ぐらをガッツリ握られた。  驚きながら紅花の顔を見ると、てへっと笑いを返された。 「やっぱりね。あたし狐だよ。性別くらい鼻で嗅ぎ分けられる」 「あ…………」  何も言い返せずに口をパクパクさせているだけの私に、紅花が更に耳元で話し続けた。 「さっきの理由でトラウマになっているのなら、自信を付ければいいのよ」 「じ、自信。ですか」 「そう。つまりは練習よ。何だって上達する為には練習が必要。自信を取り戻せば、トラウマも克服出来るかもね」  バチンっ、と片目をつむってみせた紅花。  性別がバレてしまったけれどどうしたらいいのかも分からないし、とりあえず先に行ってしまった颯懍を追いかける事にして紅花と別れた。 「それでは今度こそ、失礼します」 「うん、またねー」  手をひらひらと振って見送る紅花が「面白いことになりそーうっ!」と呟いていたのは、明明には聞こえなかった。
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