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その手に抜き身の剣が握られているということは、男が繰り出した風の刃を颯懍が軌道を変えて回避した。と言った所だろう。
あの男、妖だったんだ。
気配をよく見てみれば確かに人とは違う気の流れと、そして穢れを感じる。
「客の振りをして食べていたのか」
「夜鷹の掃除をしてやっていたのさ。要らん人間を喰ったところで、誰も文句は言うまい?」
路上で身を売る最下層の遊女ならば、いなくなった所で誰も騒いだりしない。これまでひっそりと貪っていたのかと思うと反吐が出る。
「明明、お主がやれ。周りは俺が何とかするから好きなように動いて良い」
「はい!」
何の妖だか知らないけど容赦しない。
だいたい、要らない人間ってなによ!!
思い出しただけでムカムカしてきて、沸騰しそうだ。
さっきの様に咄嗟に出す術というのは、自分が1番得意とする属性の術であることが多い。だからこの妖の場合は風を起こしていたから、きっと木に属する仙術が得意なはず。
颯懍の様にその場で金属を創り出して剣にするなんて出来ない。持ち歩きやすい小さめ剣を取り出して一振りすると、私でも扱いやすい長さの剣に変えた。
金剋木。
金は木に剋つ!
剣を握りしめて妖へと突っ込んでいくと、やはり風の刃が飛んできた。男が手を振り上げる度に、鋭い空気が襲いかかってくる。
男の繰り出す猛攻撃に、服は愚か身体中が切り傷だらけになってきた。頭の上でお団子にしていた髪紐も斬られて、長い髪が邪魔になる。
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