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かと思った。
地面スレスレの所で動きがピタリと止まって、まだ宙ぶらりんになっている。
「??」
「そろそろ選手交代だ。弟子をたたき肉にされる訳にはいかんのでな」
颯懍は屋根の上からひらりと飛び降りると、こちらへやって来て私の胴に腕を回した。次の瞬間には根っこの束縛から解放されて無事、着地出来た。
斬った訳でも燃やした訳でもない。なんの術も使って無さそうなのに、なんで根っこを解けたんだろう?
虎男も私と同じ疑問を持ったようで、怒鳴り散らしはじめた。
「どうなってんだこりゃ!? 俺はまだ術を解除してないぞ! 何で思い通りに動かない?!」
「ど阿呆め。そんなの決まっておろう。お主より俺の力の方が上だからだ。この木の根の主導権は俺にある」
「馬鹿なっ……!」
あっという間に木の根にグルグル巻にされた虎男。じゃなくて、もうほとんど虎だ。人型を維持出来なくなり獣型に戻ってしまっている。
「さて、どうやって痛ぶろうか? お主がしようとした様に、何度も叩いて潰して殺すか?」
背筋の凍るような笑みを浮かべ、ポンポンと虎の頭を叩いて遊んでいる。
こわっ、こわっっ、こわっっっ!!
「なんてな。俺はそう言う趣味は無い」
言うが早いか、既に虎の首には剣が突き刺さり、次の瞬間にはボッと火がつき燃え上がった。灰になるまで十秒とかからなかったんじゃ無いだろうか。石畳が高熱で割れていた。
「やっぱり師匠って、かっこいいですね」
最近颯懍のポンコツな所しか見ていなかったので、改めて女性関連以外の事はやる男だと見直してしまった。
「やっぱりって何だ。やっぱりって。それより早くここから逃げるぞ。今日はもう疲れた。人が集まってくるのは勘弁だ」
「ええ? でも石畳がボロボロですよ」
虎男が根っこを使ったせいで、通りに敷かれた石畳の一部が崩れてぐちゃぐちゃになってしまっている。颯懍が風を相殺して防いでくれていたおかげで建物への被害はなかったものの、申し訳ない。
最初から颯懍が虎男の相手をしていたらこうはならなかったと思うと、まだまだ自分の力不足を感じる。
「そんなの役所の者にでも任せておけ。こっちは妖を1体殺ったんだからチャラだ。行くぞ」
傷だらけの私を何時ぞやのように、肩に乗せて颯懍は走り始めた。
これじゃ私、米俵だな。
お姫様抱っこをするという発想は無いのだろうか。
ちょっぴり不満が残る明明だった。
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