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練習
『自信を付ければいいのよ』
『何だって上達する為には練習が必要。自信を取り戻せば、トラウマも克服出来るかもね』
「自信……練習かぁ……」
この前紅花に言われた言葉を、何度も頭で反芻する。
「練習って言ったって、その練習を嫌がるんだもん。どうしようもないじゃない」
颯懍はあの日以降、断固として遊郭へ行く事を拒んだ。
知り合いのいない、別の街ならいいじゃないかと聞いてみたけど駄目。
だいたい、その日に会った女とする事だけするなんて信じられん! とか言っちゃって、颯懍は結構硬派だ。
「やっぱり紅花さんから、自分で按摩をして、気持ちよくなる方法でも聞いた方が良かったかな」
でも紅花には私が女だって知られている。あんまり深く聞き込みをすると颯懍の為だとバレてしまうかもしれない。
「さっきから一人で何をブツブツ言ってるんだ?」
洗濯済みの颯懍の服を箪笥にしまっていたら、部屋へと本人が入ってきた。
使用人は基本的に颯懍の部屋へは入ってこない。何故なら術の施された謎の道具やら何やらが沢山あって、不用意に触ると危険だから。
という訳でこの部屋の掃除などは、兄弟子の天宇に代わって私がしている。
「呪術なんてかけてませんから、大丈夫ですよ」
「お主の半端な術になど、かかるわけなかろう」
「むぅっ! どうせ下手くそですよ」
神通力の使い方が上手くない事くらいは自覚している。でも面と向かってハッキリ言われると腹が立つ。
「……とは言え明明。お主は仙に最も必要なものを既に持っているがな」
「最も必要なもの、ですか?」
「自分で気付いていないのなら、そのまま知らない方が良い。ほら、さっさと片付けろ」
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