嫁入り

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嫁入り

 長引く村の干ばつに、長老は言った。  『村の若い乙女を一人、龍神様の花嫁として捧げよ』と。  だから私は答えた。  『はいっ! それ、私がやります!!』って。  理由は簡単。  死ぬのは嫌。でも、誰かが苦しむのを見るのはもっと嫌。それだけ。  馬鹿な私には、干ばつを止める術も他の方法も思い付かないから仕方ない。  そういう訳で私は今、豪奢な花嫁衣装を着せられて、小さな舟に乗り込もうとしているところだ。 「明明(メイメイ)、なんでっ……何でこんな事に……」 「何で嫁になるなんて名乗り出たのよぉ!あんたってホント馬鹿。お人好しの大馬鹿者!!」 「んもう、みんな。友達の嫁入りにそんなに大泣きしないでよね」  鼻水だか涙だか分からないものを顔中から垂れ流して、見知った顔の面々が泣いている。  もちろんその涙の意味は、嬉し泣きなんかじゃない。  私が今から死にに行くから。  この辺りに雨を降らせてくれるという龍神様の御嫁に行くと言うのは、それはつまるところ、生け贄になるって事で。  正直言えばめちゃくちゃ怖い。  それでも、今こうして私の周りで泣きじゃくっている友達を生け贄として見送るよりも、自分が生け贄になった方がずっとマシ。 「……姉ちゃん、行っちゃうの?」 「泰然(タイラン)、お父さんとお母さんの言う事をよく聞いて、家族(みんな)の事頼んだよっ」  普段喧嘩ばっかりしていた弟が、目に涙をいっぱいに溜めて俯いた。その頭をガシガシ撫でると、目からこぼれおちた涙が地面に落ちてシミになった。
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