伊藤 紗香---side1

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伊藤 紗香---side1

緊張する。 大学のない日に待ち合わせって、もうデートじゃない? 瞬は、わたしのことどう思ってるんだろう? 2人で映画に行く誘いにのってくるくらいなんだから、少しは期待してもいいのかな…… 中学や高校の時とは、もう、違うよね? 瞬の好きなシリーズものの映画が公開するのを知って、サッカー部のマネをしている友達の咲良に、練習が休みの日を予め聞いておいた。 そうしておいて、さりげなく、部活が終わった後の瞬を映画に誘った。 「瞬!」 「なんだ、紗香か」 「『なんだ』って失礼じゃない?」 「なんでそんなにテンション高いんだよ。こっちは練習で疲れてるのに。何か用?」 「今週末から公開のスターウォーズの新作、見に行かない? わたし、来週の土曜だったらバイトもないんだけど、どう?」 「マジか! オレもちょうど来週は休みなんだ。行く行く」 「前回ストーリーの流れが変わっちゃったからどうなるのか気になるよね」 「そうなんだよ! じゃあ今までのジェダイって何だったんだよ、て思うよな。やっぱ紗香とは趣味合うわ」 「だね」 『合う』んじゃないよ、『合わせてる』んだよ、バカ! 一緒に行きたくて、人気の映画だし、瞬の部活の休みの日を聞いて、すぐにチケットも購入したんだよ。 瞬はバイク通学だったけど、その日は、電車通学のわたしに合わせて駅までバイクをひいて一緒に歩いてくれた。 中学まではほとんど背が変わらなかったのに、高校に入る前あたりから追い越されて、今では頭一個分くらいの差ができてしまっている。こうして並んでいると、瞬の顔を見るためには見上げなくちゃいけない。 「じゃあな」 「うん。バイバイ」 駅までもっと遠かったらいいのに…… 別れた後も、小さくなっていく後ろ姿をしばらく立って見ていた。 今日の待ち合わせは、ショッピングモールのインフォメーションだった。 瞬はいつも約束の時間に遅れるから、それを見越して待ち合わせの時間を決めることにしている。 父さんが家なんか買わなければ、どっちかの家で待ち合わせをして、そこから一緒に来れたのに…… 約束の時間を15分くらい過ぎて、瞬は呑気にやって来た。 映画まで少し時間があったので、スポーツ用品店をぶらぶらした。 そろそろ映画館に向かおうか、ってなって、歩いていたら、瞬がいきなり立ち止まった。 瞬の視線の先を追った。 月島美雪 瞬が見ていたのは、大学で同じ学科の月島美雪だった。 知り合いかと聞かれて、『あんまり話したことない』と言ったのは嘘じゃない。実際、必要最低限の会話しかしたことはない。 ただ、彼女を前から知っているだけ。 中学の時と比べて雰囲気が全然違う。 男子が噂しているのを何度か耳にした。 『月島って美人だよな』 『その辺の女子とはなんか違うっていうか』 月島さんの柔らかそうな濃い茶色の髪の毛は、天パなのかゆるいウエーブを描いている。年中日焼けしているわたしとは違って、肌の色も白い。 今は。 以前の月島美雪はそうじゃなかった。 瞬もやっぱり、あーゆー子が気になったりするの? でもね、彼女は、瞬に絶対振り向いたりしないよ。
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