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それから数日が経った。
昼食を終え、テレビのワイドショーを妻とぼんやり眺めていると、急に司会者が訝しげな表情を浮かべた。
「……ええ~、ここで何やら政府からの臨時会見があるとのことです。今、画面切り替わりますか?」
司会者の問いに答える代わりに画面が切り替わる。
見覚えのあるプレスルーム。その中央の演台には、このところの奇妙な事件事故に後手後手の対応だと批判されている最高責任者の姿があった。
「あー先般より報告されております、多数の市民の失踪事件、ええ、構造物欠損に伴う崩壊事案の続発、ならびに原因未詳のインフラ非常停止事故、等々につき、国民の皆様に重大な報告をさせていただきます」
顔色の悪い総理大臣は手元の水を一口含み、どこか困惑の色を浮かべながら言葉を継いだ。
「えー、現段階では、あー、まことに非科学的な言及にならざるをえないのですが、んんっ、各所から上がっている報告内容を専門家とともに精査しました結果、……と、当該事象はすべて『猫の身震い』によって引き起こされているとの判断を、えー、下したわけであります」
後頭部だけが居並ぶ記者たちが途端にざわつき始める。
発言の真意をつかみかねた質問が飛ぶ中、一旦画面がスタジオに戻る。芸人上がりの司会者は、冗談のように神妙な表情を浮かべていた。
「えーと、皆さん。これは由々しきことかもしれません」
それは件の影のことなのか、それとも総理の頭のことなのか。
彼はあえて言わなかった。
翌日、政府の対策会議参与を務めるという大学教授がワイドショーに派遣され、コメンテーター陣からの質問攻め、その矢面に立っていた。
「つまりは簡単に、至極簡単に言うとですね」
額に汗を浮かべた老教授は白旗を上げるように言葉を絞りだす。
「消しゴムみたいなものですよ。鉛筆の線を擦って消すように、猫が身震いすると隣接する空間に存在するあらゆる物体を消失させる。今のところ、観察の上ではそうとしか言えないのです。ええ、残念ながら」
スタジオが沈黙に包まれる。まるでキツネにつままれたような表情を誰もが浮かべる。
放送事故はまずいと思ったのか、司会者が苦し紛れに素っ頓狂な問いを投げかけた。
「猫が消しゴムになったんですか?」
「ええ、そう思っていただいて差し支えありません。理屈よりも何より、現象がいかなるものか、それが肝要ですから」
そうしてその日から、謎の現象には「イレイサーキャット」、通称「EC」の名がついた。
名前がつけば人々に認識され、このグローバルな世界の隅々まで拡散していく。
ただ当然のことながら、世界の大勢は「日本は何を言っているのか?」という当惑と嘲りに占められていたけれど。
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