ぶるぶる

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 けれどもみんな、それぞれにその理由を誤解して認識しているため、それらが同一の原因によるものとはまったく気づかず、結びつけて考えるようなこともない。  だが、俺はその真の原因というのを知っている……いや、俺同様に〝視える〟人間ならば、他にもそれに気づいた者はいるかもしれない。  そう……〝視える〟人間が見れば、彼ら、彼女らがなぜ震えているのかがわかるのだ。 「いやあ、今日もガンガン冷房効いてるなあ……」 「ああ、そうだな……」  彼の呟きに、俺はそう合わせて生返事をしてみせるが、本当はぜんぜん寒さを感じてなんかいないし、それが冷房のせいでないこともよーく理解している。  〝視える〟霊感スイッチをオンにして、そのぶるぶる震えているバンド仲間の方を見つめてみれば、やはり彼の首筋には半透明に透けた女が今日も絡みついている……。  長い髪をボサボサにして、まるで凍りついているかのように真っ白くなっているいつものあの女だ。  彼のように冷房効きすぎだと感じている者も、熱が出たと思っている者も、緊張してるから震えているのだと勘違いしている者も、じつは皆、その首筋にはあの女が取り憑いているのである。  女が幽霊なのか? それともまた別の魔物のような存在なのかは専門家じゃないのでわからない。  ただ、気になってちょっと調べてみると、どうやら世の中には〝ぶるぶる〟という妖怪がいるらしい……。  水木しげる先生の某ゲゲゲの漫画にも登場している妖怪だ。  別名〝臆病神〟や〝ぞぞ神〟ともいい、首筋がぞっとして恐怖に総毛立ったり、臆病風に吹かれたりするのはこの妖怪の仕業だとされている。  その〝ぶるぶる〟の姿は水木先生の漫画の他、古くは江戸時代に鳥山石燕(とりやませきえん)という人が描いた『今昔画図続百鬼(こんじゃくがずぞくひゃっき)』という妖怪の辞典のようなものにも載っているのだが……その絵が、なんだかあの女によく似ているのだ。  いや、まさか妖怪なんてものが実在するなんて俄かには信じられないが、しかし、女の絡みついた人間達が一様に震えを感じているというのも、その妖怪〝ぶるぶる〟の特性と一致している。  そうなってくると、両者がまったく無関係なものとはどうしても思えないのである。
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