1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
世界が揺れる。そして始まった。
脳みそはぐわんぐわんと揺れていいた。思考だって定まらない!
だから速く、速く、最速を目指せ。
「この興奮がたまらねぇぜ。」
俺は手を動かす。いっときたりとも手を止める暇はない。
動かすんだ、このまま。
誤字脱字なんて気にせず文字を入力する。だってそれが、これが、とっても楽しいから!!
でも一応、残りの寿命を見てみよう。
うん、8。まだいける。まだ保存しなくてもいい。
さあ何から書こうか。
そうだな、まずは自己紹介か。
俺の名前はハヤト。漢字は知らん。苗字も知らん。けどハヤト。疾走感を感じる気がしていい名前な気がする。気がするだけ。
多分、普通の高校生だ。
よくある物語のはずだから、ハヤトは普通の男子高校生で、学校に通っている。
日課は毎日食パンを加えて登校することと、トラックに撥ねられること。
よし、主人公だな。
でも、それだけだとちょっと物足りないかな?
ああ、魔法が使えるってことにしよう。つまり俺が通っているのは魔法学院だ。学園でもなく学校でもなく、学院である理由は知らん。自分で考えてくれ。
ようし、まだまだ7。これならいける。まだ大丈夫。
けど、ここいらでなにか進展を起こさないとだな。
例えば、この物語のキーパーソン的ヒロイン的存在。いるかなそんなの。
いや、つくろう。
「ハヤトくん、好きですッ!」
出現したのは俺のことが大好きな天使様。巨乳で美乳。
俺が召喚した魔物であり、神様級に強くて神様よりも可愛い。神様見たことないけど。
なんかいい感じの召喚術の授業の時に、いい感じにラッキースケベを起こしながら落ちてきた。
ラッキースケベからはじまり、なんやかんやでいい感じのヒロイン枠になり、俺と交際を……。
あ、しないほうがいい? 確かにハーレムものにするなら特定の恋人は作っちゃダメか。いかんいかん、うっかりしてた。
おおっと。ここでもう6。
ヒロインの設定に1使っちゃったけど、これ大丈夫かな?
うーん、思ったより展開がしょぼいなあ……。
ヒロインから告白されるって、それがなんだって話だしな。まだ800文字も二人の馴れ初めをかけてないのに、感情移入もクソ喰らえってな。
あ、そうだ! 世界を滅ぼそう。
隕石が降って、地軸がなんかおかしなことになっている。このままじゃ地球はあと数分も持たないだろう。
……いや、設定は魔法学園だし、もっと魔王とか出てきていいんじゃない……?
「わたしは魔王倒せるよ?」
「そうだった、お前天使だったな」
「忘れないでよ〜!」
むくーっと頬を膨らませ、ヒロインは抱きついてくる。
これだけでイラストなら結構お腹いっぱい。でもこれは文字の羅列である以上、うまくやらないと満足いくコンテンツにはならない。
そんなこんなで5。流石に3切ったら終わりにしよう。
うーん、でもそう考えるとあんまり時間がないな。
進展、進展……あ、告白の返事まだだわ。
「ごめん、俺の運命の人は昨日ぶつかったトラックなんだ」
「な、なんだってーー!」
いやあ、あれは運命的な出会いであった。
急に角からトラックが飛び出してくるんだもん。思わず口に含ませてた腸まで届く大腸菌を吹き出しちゃった。めんごめんご。俺は腸で蝶々結び。
だからヒロインちゃんには申し訳ないけど、俺はあのトラックと結婚しなきゃなんだ。
ヒロインちゃんはふるふる震える。
「……そ、そいつに、わたしが、負けたって言うんですか」
あ〜確かに。画面の華とかそう言うの考えると、無機質で無機物で灰色なトラックより、生身の美少女の方がいいのか……?
けどこの世の主人公のこと割として、角から飛び出してきた登場人物と結ばれなきゃならないんじゃ……?
やっぱごめんねヒロインちゃん。そう口にしようとしたが、いつのまにかそんなことを口にできない体にされていたことに気づく。
俺はなんだか、持ち上げられているではありませんか。
「ハヤトくんがいけないんだよ。ハヤトくんが、わたしのこと拒絶するから……」
上下にシェイクシェイク!
左右にもシェイクシェイク!!
うそん。
ヒロインちゃんがいつの間にかヤンデレに進化してるんだけど。
ぎゅーっとどこからかでてきたなにかいい感じの物体で縛られ、ふぎゅーっと体を軋ませる。いやもうそれはすっごい力で。とてもたいそうなことでござんしょう。
もしかして、これ、俺が死んで終わるんですか?
まあそうだよね、気づけばあと4だからね。
「ハヤトくん、ハヤトくん、ハヤトくん」
脳みそ。が。ね、揺れてる。ね。
のうみそ。
ねえ知ってる?
ちょうちょむすびできるんだよ。
ちょうで。
揺れてる。ふるえる。震えが止まらない。
さっきからちっとも、正気になれない。
揺らされているからだろう。ヒロインちゃんに。あれ、ヒロインちゃんって誰だっけ。
「救急車! 早——て——」
地面に横たわっている。こんなところ、冷たいだけで、硬いだけで、いいところないのに。なのに冬の布団並みに抜け出せない。やだなあ、冷たい。
ああ違う、俺が冷たいんだ。
脳みそはぐわんぐわんと揺れていいた。
思考だって定まらない。
だからゆっくり、ゆっくり、整理する。
信号青だったから油断した。右左をちゃんと見て、手まで上げてる小学生時代が懐かしい。
気づけば俺の体は、硬いトラックに撥ねられていた。
最悪だ、今日は新作ゲームの発売日なのに。あのRPG買うのにバイトして、貯金して。え、なのに俺一回もプレイできないの? かわいそすぎん?
てか明日は拓也と遊ぶ予定もあったのに。スマホ、真っ二つに折れちゃってさ。ことわりの連絡入れられねえじゃん。
あーー、ダメだ。もうダメそう。本当にダメだ。
「ハヤトくん」
誰だよハヤト。俺は山城大知ですが。
あれ、というかさ。
俺が最後に見た景色って、あのクソみたいな走馬灯になっちゃうの?
それは、ちょっと——
最初のコメントを投稿しよう!