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1 メゾン・ウィステリア
愛したから、病んだのか。
病んだから、愛したのか。
彼女と出会ってから、いつしかアンブローズの胸には、自問自答のリフレインが続いていた。
* * *
日が短い冬の午後、アンブローズは仕事を早く切り上げて、娼館メゾン・ウィステリアの重たい扉を開けた。
日が暮れていないせいか、エントランスホールに人は疎らだった。
壁に飾られているメゾン・ウィステリアの娼婦の肖像画が、がらんどうのホールの賑わいになっていた。
素早く従僕の男が寄ってきて、
「ただいま、お休み中です」
と、アンブローズに耳打ちをした。
「そうか。なら、取り次ぎ無用」
と言って、優雅な足取りで階段を上り、目指す部屋に向かった。
目指す部屋は、最上階の奥にある。
静かに過ごしたいというアンブローズの希望で、最上階の部屋に変えてもらったのだ。
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