花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?

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■ 『宮田工業』は曽祖父の代から続く会社で、私、宮田香はいわゆる社長令嬢だ。  まぁ、社長令嬢と言えどお淑やかで見目麗しい印象からはかけ離れ、作業服を着て一般社員とし宮田工業に務めている訳だけど。  ーーそして今、花森課長にお叱りを受けていて。 「人を待たせておいて随分な態度ですね。宮田香さん」  向かい合わせに座り、足を組みかえるとボルテージが上がる。 「あは、すいません。私、集中すると他が見えなくなってしまって。花森課長も作業を中断させるか、諦めるかすればーー」  バンッ! テーブルに書類が叩き付けられた。言い訳が粉々になり、くしゃみを誘発する。 「っくしゅん! 埃をたてないで下さいよ」 「先日の監査で指摘されてましたが、事務所内のクリンネスを徹底して下さい! そういえば改善報告がまだでしたが? 早急に提出して頂きたい」 「はいはい。あ、そうだ、お掃除ロボット買います?」 「そんな予算が何処に?」 「目くじらを立てる程、高くはないでしょ? 天下の宮田工業がケチくさいじゃないですか」 「宮田香さん、会社の金をご自分の財布とお考えになるのは止めて頂きたい。これらは経費で落ちません! 宜しいですね?」  あちらは私がパフォーマンスで肩を竦めている事などお見通し、ますます語気を強め念を押す。 「は、はい」  流石に少し待って下さいと伝え、一時間放置は不味かったか。花森課長は美しい姿勢で着席しているものの、身体中から怒りが滲む。 「経費で落ちないという連絡だけなら、部下の方へ言付けたら? 課長もお忙しいでしょう?」 「あなたは社長の娘。そのあなたへ指摘するのを皆、躊躇します、当たり前です。宮田香さんも社長令嬢という立場に甘んじ、残業食代だ、ホテル代だと請求するのでは?」 「だって前の人はーー」  目の前に手を翳された。首を振って私の言葉を受け付けない。 「私は前任者と違うと申し上げているはず。会社はお父様からお兄様へ代替わりをする大事な時期なんですよ? 今や透明性のある会社経営は必至。昔みたいなどんぶり勘定は出来ません。いい加減、ご理解下さいませんか?」
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