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カイロの温かさに浸っていると、駆馬が頬を膨らませた顔を近づけて来た。
「姉ちゃん。今俺と手を繋いで帰ったら温かいお鍋と冷えたビールが付いてくるよ」
冷えたビール。……私の欲しいものがよく分かっているじゃないか。
「……ちなみにカイロを選んだら?」
「冷えたお鍋と常温のビール」
駆馬は大学生だ。実家からよりも私の家からの方が近いから、大学生の間だけ居候させてと言って転がり込んできた。その間、料理当番をするという条件で。
私は掃除も洗濯もできるけど、料理だけは苦手だから助かっている。反対に弟はお店でも開けるんじゃないかというくらいには料理が上手だ。
とても美味しい。
要するに、残念ながら私の胃袋は弟に掴まれているのだ。
「あー、手を繋ぎたい気分だなー」
棒読みで物理的にも掌を返した私に、駆馬は満足そうにニンマリと笑った。
カイロを取り返し、私の冷え切った手を握る。いわゆる恋人繋ぎにしたその手を、カイロと一緒にダウンジャケットのポケットに仕舞われてしまった。
「ところで何鍋?」
「帰ってからのお楽しみ」
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