第25話 不満な授業

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第25話 不満な授業

 キーンコーンカーンコーン 本日最後の授業終了のチャイムが鳴り響く。 「エドさん、起きて、起きてくださいってば!」 私は未だに眠りこけているエドを揺さぶった。 「んあ? もう……朝なのかぁ?」 ゆっくり机から頭を離すエド。 「何寝ぼけてるんですか? ここは学校。そして今は15時半です。授業が終わりましたよ」 「そうか……授業が終わったのか」 コキコキ首を動かしながらエドが周囲を見渡す。 「あれ? もう誰もいないな……皆帰ったのか?」 「ええ、とっくに帰りましたよ。失礼なエイドリアンたちもね」 エイドリアンは教室を出る時、鋭い目つきで私を睨んできた。もっとも他の3人の男性たちとカレンは私に目もくれなかったけれども。 ひょっとすると、彼らはもう私に興味を無くしてくれたのかもしれない。 「そうだったのか。エイドリアンに何かされなかったか?」 私の友達になったというだけあって、心配してくれているのだろう。やっぱり持つべきは友なのかもしれない。 「ええ、ご覧の通り大丈夫です」 「そうか……良かった。ステラに何かあったら、もうおにぎりが食べられないかもしてないからな」 ……前言撤回。やはりエドは私のおにぎりだけが目当てだったのだ。 「もう起こしたので私の義務は終了です。はい、お疲れ様でした!」 席を立つと、エドに手首を掴まれた。 「どうしたんだよ? ひょっとして何か俺に怒っていないか?」 「べっつに! それとも心当たりがあるなら自分の胸に手をあててみたらどうですか?」 すると言われたとおりに胸に手をあてるエド。 「……ドキドキいってる」 「そりゃ、そうでしょうよ。生きているんですから。それでは用事があるので、これで失礼します」 カバンを持って教室を出ると、後ろからエドが追いかけてきた。 「ちょっと待ってくれよ。友達が俺しかいないボッチのステラに用事なんてあるのか?」 全く、どこまでも失礼な人だ。廊下を歩きながら答えた。 「ええ、あるんです。というか、用事が出来たんです。今から『魂理論学』の教授の所へ行くんですよ」 「へ〜勉強熱心だな? 分からないところがあって、聞きに行くのか? そう言えば、授業の方はどうだったんだ?」 「どうもこうもないですよ! 時間の無駄でした! 一体なんなんですか? あの授業は!」 「おいおい……随分腹を立てているな? 一体何が不満なんだ?」 「不満? 全部ですよ、全部! 90分授業の内、その殆どが単に学生たちに順番に教科書……と言うか本を音読させただけですよ? それに魂の交換はタイミング次第だってどういうことです? 理論もへったくれもないじゃないですか!」 エドが悪いわけでは無いが、つい彼に当たるような口調になってしまう。 「え? そうだったのか? それはまた随分いい加減な授業だな。でもその割には随分学生がいたようだが……何故なんだ?」 「それは、単位が取りやすい授業だったからですよ」 そう、私は耳にしてしまったのだ。学生たちの話を……! 「学生たちは授業が終わって教授が教室の外へ出た途端口々に言ったんですよ? 本当にこの授業は楽でいいな〜とか、試験は無いし、レポートだって、自分の考えをまとめればいいだけだしな〜なんて。どう思います?」 「ど、どう思いますって言われてもなぁ……」 「本当に……こんな授業、出るだけ時間の無駄でしたよ」 「おいおい、いくらなんでもそれは言いすぎじゃないか? でもこれから教授のいる教室へ行くんだろう? 俺も行くよ」 エドが一緒に来る? 冗談ではない。 「駄目です!」 素早く彼を振り返る。 「え? 何で駄目なんだ? 俺たち……」 「はい、はい、友達なのでしょう? だったら友達の言うことは聞くものです」 「分かったよ。どうもついてきて欲しくなさそうだからな」 エドが肩をすくめる。 「それじゃ、明日また会おう。ステラの家に迎えに行くよ」 「はぁ? 何言ってるんですか? それに私の家、知ってるんですか?」 「だから、番地を教えてくれよ」 「……分かりません」 「え?」 「だから、私は記憶喪失だから番地を知らないんですってば」 「それじゃ、どうやって帰るつもりだったんだ?」 「どうって……あ! 忘れてた!」 「ど、どうしたんだ? いきなり大きな声を上げて」 「そう言えば、御者の人と16時に正門の時計台の下で待ち合わせしていたんですよ。はぁ……折角教授の所へ行こうと思っていたのに……」 すると、エドがポンと肩を叩いてきた。 「大丈夫だ、ステラ。安心しろ」 「安心? どういう意味です?」 「だから、俺が御者を足止めしておいてやるよ。だからステラは心置きなく教授の元へ行ってくればいい」 「なるほど……それは良い考えですが……ご迷惑ではありませんか?」 「いや、おにぎりの為ならどうってことないさ」 やはりおにぎりのためだったか。……でも、それでもいいか。 「分かりました。ではお願いしますね!」 私は手を振ると、教授のいる部屋を目指した。 あの授業は違和感だらけだった。それに学生たちが気になる話を口にしていたのだ。 絶対、直に教授から話を聞きださなければ――
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