第30話 社畜根性?

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第30話 社畜根性?

 一体どういうことなのだろう?  もしかして私と婚約することで、ロンド伯爵家の首は繋がっていたというのだろうか? だとしたら、尚更エイドリアンが強気な態度に出てくる理由が分からない。 謎だけを抱えた私を置き去りに、話し合い? が始まった。 「アボット伯爵。どうか私の会社を見捨てないでください……今、伯爵に見捨てられれば従業員だけでなく、我らも路頭に迷ってしまいます。何卒、お慈悲を……! ほら! エイドリアン! お前も謝るんだ!」 エイドリアンは更に父親に頭を押さえつけられる。まるで責任を取らされる社畜のようだ。 「も、申し訳ありません……」 エイドリアンは震えながら謝罪するも、恐らく理不尽な怒りに震えているのかもしれない。 何しろ彼の顔が見えないことには何とも言えないが。 「あら? ロンド伯爵……謝罪するべき相手は私達ではないでしょう? ステラに謝るべきではなくて? 特に、そこの……失礼な令息にね?」 母が、あろうことか足を組み、気だるげに両手を組んで顎を乗せた。 おおっ! とても貴婦人? には見えない姿だ。 もしかして母は酔が回っているのだろうか? 「えっ! そ、そ、それは……」 ロンド伯爵の顔が狼狽する。 うん、確かにそうだろう。私だって戸惑っているのだから。 「どうなのだ? エイドリアン。 君は私の大切な娘に随分、慇懃無礼な態度をとっていたようじゃないか。自分の立場も顧みずに……今まで娘が君を思う気持ちを汲んで、見過ごしてきたが……もう、そうはいかない」 「ええ、ようやくステラの目が覚めたようですからね。今日、婚約破棄をしたいと自分から言ってきてくれたのだから。これほど嬉しいことはないわ」 「エイドリアンッ! ステラ嬢に早く謝るのだ! 会社や家がどうなっても構わないのか!?」 ロンド伯爵が顔を真っ赤にさせて怒鳴りつける。 禿頭まで赤く染まるその有り様は、まるでタコのようだ。茹でタコを想像して、思わず笑いそうになってしまう。 だけど、本当にあのエイドリアンが素直に謝るのだろうか? もし謝るのなら……少しは見直してあげてもいいかもしれない。 頭を必死で下げている社畜の父親に免じて……。 「チッ」 え? 舌打ち? ……今舌打ちしたよね? 他の人たちはエイドリアンの舌打ちに気づいていない。 どうやらステラは耳が良いのか、ばっちり聞こえてしまった。 「……ステラ、俺……いえ、僕が悪かった……です。今までのことは反省してます。これからは誠意を尽くすので……どうか、婚約破棄だけは……しないでくれ……じゃなくて、下さい。お願います」 うつむきながら私に謝罪の言葉を述べるエイドリアン。 まるきり棒読みだし台詞を暗記でもさせられたのか、つっかえている。 「ステラ嬢、この通りエイドリアンも反省しています。2人の間で何があったか分かりませんが……どうか許していただけないだろうか?」 ヘコヘコ剥げ頭を下げながらエイドリアン父が訴えてくる。 反省? あれが本当に反省の態度なのだろうか? あれが日本の会社だったら、ふざけているのかと更に怒鳴りつけられるだろう。 「そうですか……本日、何があったのか御存知では無かったのですね……では伯爵。そちらの令息が娘になにをしたのか、証拠を持ってこさせましょう」 私ではなく、母が伯爵に語りかけた。 「え……? 証拠?」 首を傾げる伯爵。勿論、私も証拠とは何のことか分からない。 すると、母が側に控えていたメイドに声をかけた。 「例の物を持ってきて頂戴」 「はい、奥様」 メイドは返事をすると、すぐに部屋を出ていった 「例の物とは何だ?」 父が母に尋ねる。……どうやら父も知らないようだ。 「ふふふ……見れば分かりますよ」 含み笑いをする母。まるで仕事の出来る女上司のように見える。 「奥様、お持ち致しました」 先程のメイドが畳まれた服を持って現れた。 え? あの服は……もしや……。 「広げて見せて頂戴」 「はい」 母の言葉にメイドは頷き、服を広げてみせた。 「……あ、あれは……」 ポツリと声が漏れてしまった。 そう。メイドが広げた服は、今朝大学に着ていった私の服だったのだ。 そしてスカート部分は見事に汚れがこびりついていた――
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