第32話 今回の戦利品

1/1

498人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ

第32話 今回の戦利品

「ふぅ……色々あって、疲れた一日だった……」 明かりを吹き消し、ベッドに潜り込むと目を閉じた。 「エイドリアンが大学をやめるんじゃなくて、私がやめるべきだったかな……そうすれば、もうあんな不愉快な目に遭わなくて済むし……」 けれど、そこで思い直す。 そうだ、あの大学には元コンビニ店員のビンセントがいる。彼も私と同様魂を入れ替えられてしまった人物だ。 今日はあまり話をすることが出来なかったけれど、彼は私よりも半年前にこの世界の住人になった先輩だ。 私達は……もっと話し合いをする必要がある! 「そうだ……彼に会うには大学に行くしか無いものね……それに、エドが迎えに来るって言ってた……し……」 いつしか私は眠りに就いていた……。 **** 「あれ……この部屋は……? あ! 私の部屋じゃない!」 気付けば、私は夢の中に入り込んでいた。 「ラッキー! またこの夢を見れたんだ!」 そうと決まればグズグズしていられない。今日も現実世界に持ち込めるだけの……。 「食料品を持ち帰らなくちゃ!」 まず、真っ先に持ち出すのはお米だ。 早速台所へ行くと、床の上に無造作に置かれた米袋を確認した。 「う〜ん……やっぱり増えていないか……」 私は少しだけ期待していた。 この部屋から持ち帰った物は、次に訪れた時には全てリセットされているのではないかと。 「でも……増えていないってことは、そういうことなんだろうな……」 恐らく、もうお米は3kg程しか残されていないだろう。 「こんなことなら10kg買い置きしておけば良かったかな……」 しかし、女子の一人暮らしでお米10kgなんて普通に考えれば買うはず無い。 それにまさか目覚めれば、強制的に魂が交換されて別世界。 けれど、夢の世界から元の部屋のものを持ち帰ることが出来る……なんて状況になるとは誰も思いもしないだろう。 「仕方ない、お米以外も物色しよう」 気を取り直すと食料箱(別名段ボール箱)をガサゴソと漁り、今回はポテチ5袋。海苔せんべいに、ゴマせんべいを2袋。 そして醤油にみりん、ついでにサバ缶とツナ缶にコンビーフ缶。未開封のマヨネーズにケチャップをチョイスした。 「あ! そうだ! 缶切りに……ラップとアルミホイルも持って帰ろう! 何かに役立つかもしれないしね」 そして、それら全てをエコバッグに詰め込む。 「う……お、重い……」 持ってみるとズシッとくる。かなりの重量だ。 だけど……。 「絶対……持ち帰ってやるぅ……缶詰とお米だけは絶対に必要なんだからっ……!」 ズルズルと引きずるようにエコバッグを運ぶと、ベッドの上にゴロリと横になる。 「どうか……今回も全て持ち帰れますように……」 頭の中で羊の数を数え……300匹を超えた辺りから何も覚えていない―― **** ジリジリジリジリ……!! 室内にゼンマイ目覚まし時計の音が鳴り響く。 「う〜ん……」 手を伸ばし、バチンと時計を止めると起き上がった。 時刻は6時。そしてベッドの上には夢の世界でゲットしたお宝? がエコバッグの中に収められている。 「よしっ! 今回も成功!」 早速大急ぎで着替えを済ませると、米袋を抱えて厨房へ大急ぎで向かった。 そう! 何しろ、お米には浸水時間があるのだ。早くお米を水につけておかないと炊くことが出来ない。 今日はエドが朝から迎えに来ると言っていた。……おにぎり目当てに。 「まったく……! やっぱりおにぎりの約束なんかしなければ良かった〜!」 嘆きながら、長い廊下を走り続けるのだった――
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

498人が本棚に入れています
本棚に追加