君の記憶

1/1
前へ
/1ページ
次へ
ペンを片手に震えている。 どうしよう、迷う。 どっちだったか思い出せなくて、ペン先が震えている。右か左か。どちらが君の名字だったか。君が好きだと言った色は。君が持っていた花は。 君に初めて会ったのは、雪の日だった。真っ白な世界に君は佇んでいた。傘も刺さずに、空を見上げて。その風景があまりに美しく、たまに思い出しては君を思う。 だから僕は震えていた。 君の名字は。君の好きな色は。君が持っていた花は。 思い出せない自分に震えている。 窓には水滴。 その先には真っ白な世界。 「赤いよ」 後ろから声がした。ほんのり笑いを含んだその声に、僕はロウソクに揺れる火を思う。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加