スノードーム

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 開けた場所には平屋のロッジがあり、ロッジを中心とした円形の中にだけ雪が降っていた。地面には雪がうっすらと積もっていて、円形に降っている事を明確にしている。彼は雪の降らない土地で生まれ育ち、ウィンタースポーツとも無縁であるが雪がこんな風に降るはずがないという事は流石に理解していた。 「夢でも見ているのか、俺は」  彼は写真を撮ろうとスマホを取り出して、使えなくなっている事を思い出してポケットではなくボディバッグにスマホを仕舞った。彼は雪の降る円形の手前で立ち止まり、その境目へと恐る恐る手を前に出した。手の平を上に向けていると、指に雪が当たって溶けていくが手の平側にはまったく雪が降って来ない。 「どういう仕組みなんだ」  青と灰色が混ざった空やその周りにも装置らしきものはなさそうだった。彼は思い切って一歩踏み出し、進みながら振り向いて積もった雪の上に自分の足跡が付いているのを確認した。近付いたロッジの木目は年季が入っていて、町おこしの一環で建てられたものとは思えなかった。ロッジの扉を背にして彼は少しの間だけ風景を眺めた。円形の中にだけ降る雪が守りとなり、ここが神聖な場所のような気がして来る。 「綺麗だな」  心地良い静寂だった。
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