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トワイライトは目を見開いた。
「誕生日……?」
「……えっ、あれっ? 今日、だよね? トワイライトさん」
「……」
「えっ、えっ、あれ? あれ?」
焦りだすアステリズムを見開いたままの瞳でじっと見て、それからトワイライトはゆっくりと瞬きをした。
「……いえ。合っています、今日ですよ。____よく覚えていましたね」
それを聞くと、アステリズムはほっとしたように顔を煌めかせた。
「なんだ、よかったぁ! そりゃ覚えるよ、私の大事な恩人で、大好きな人で、大切な家族だもん」
アステリズムに、家族はいない。
トワイライトにも、家族はいない。
ひとりぼっちだったアステリズムを、トワイライトが拾ってくれた。
あのときの、涙が止まらないほどにあたたかすぎるココアとオムライスと、そしてトワイライトのてのひらを、アステリズムはきっと一生忘れない。
あの日があって、あの夜があったから、アステリズムは此処に居る。
今、笑って、咲いて、生きている。
「あのねっ、お誕生日プレゼント、なにがいいかわかんなくて、まだ決まってなくて、だけど一番におめでとうって、トワイライトさんに言いたくて。……ごめんね、なにもないお誕生日で……でもっ、あの、明日か明後日くらいには、頑張って何か用意する!」
ぎゅっと拳をにぎって、アステリズムが言葉を紡ぐと。
ぽろり。
トワイライトの瞳から、澄みきった涙の粒がひとつ、零れ落ちた。
「えっ、とっ、とわっ、えっ!?」
初めてトワイライトが泣いているのを見たアステリズムは、さらに焦って両手をばたばたさせる。
「ごっ、ごめんね、ほんとにごめんね! えっと……あ、そうだ、私の」
「いえ」
引き出しに向かって手を伸ばしかけたアステリズムを、トワイライトは止めた。
「いえ。……いえ、いいんです。ただ、誰かに……人に誕生日を祝ってもらうのは、何十年ぶりかと思いまして」
涙色の声が、ほんのり湿って、月光に揺れる。
アステリズムは、ぱちっと瞳を瞬いた。
「なあんだぁ。よかった、じゃあ、私のこと、嫌いになったわけじゃないんだ」
「ありえませんよ。……ありがとうございます。本当に……本当に、最高の、人生で一番の誕生日です」
「え、だって、まだごちそうも食べてないし、プレゼントもないし、それに」
「それでも」
トワイライトにしては珍しく、アステリズムの言葉を遮る。
星明かりのような瞳が、まっすぐにアステリズムを見つめていた。
「アスさんが、こうして、一番にお祝いしてくれましたから。それだけで十分です。十分すぎるくらいに、この世で一番幸せな、誕生日ですよ」
「……そっかぁ」
アステリズムはにひゃっと嬉しそうに口元を緩ませて、得意顔で布団に潜りこみ、ぴょこんと顔を出す。
「じゃあ、来年からまた、トワイライトさんのお誕生日は、いっちばんに私がお祝いするね。____私のこと、家族にしてくれて、ありがとう。
生まれてきてくれて、ありがとう。
トワイライトさん」
アステリズムの小さなてのひらが、トワイライトの節くれだったてを、ぎゅっと抱きしめる。
あのね、私ね。
あなたのことが、世界で一番、大好きなの。
____心の底から、愛してるよ。
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