このふたりきりの夜に愛をこめて

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「今日もお客さん、あんまり来なかったね」  布巾を洗いながらそうは言うが、アステリズムの表情はそこまで気にしているようには見えないし、声も口調も、残念がってはいない。 「それだけ、悩みを抱える人が少ないのでしょう。喜ばしいことです」  ゆったりとした手つきでティーカップを持ち上げるトワイライトも、口元に微笑みを浮かべていた。 「そうだね」  アステリズムはふふっと笑って、布巾を干した。 「ねえ、トワイライトさん?」 「なんですか、アスさん」 「……えっとね…………ううん、なんでもない」 「そうですか」  二人の会話はそれで終わり。  けれどそこにはあたたかな、確かに血の通った空気があった。  アステリズムは小さな背を精一杯伸ばして、珈琲を飲むトワイライトの手元を覗き込もうとした。 「アスさんには、まだ早いですよ?」 「見るだけなの!」 「そうですか。では、あちらで二人で飲みましょうか? アスさんのぶんも、あたたかいココアをご用意しましょう」 「わっ、ほんと!? 飲む飲む飲みたい!」  無邪気に瞳を輝かせるアステリズムに微笑みかけ、トワイライトはいったんティーポットを脇に置く。  アステリズムは厨房の奥の戸棚から、いそいそと自分専用の、星座が満面に描かれたマグカップを持ち出してきた。  小さな両手で持っても横の面を一周するのに足りないくらい、大きなコップだ。 「さっき来たお客さんが食べてた、満月のオムライス食べたい」 「ええ、いいですよ」  残ってる? とは、アステリズムは聞かない。  トワイライトはお客さん一人一人に合わせた食事を提供するので、残ったものを他の人にあげることは絶対にしないと知っているのだ。  手際よく準備を進めていく二人。  古時計の針がまたひとつ、進む。 「……ねえ、トワイライトさん」 「なんでしょう?」 「えへへ、呼んでみただけ」 「__アスさん」 「なあに?」 「ふふっ、呼んでみただけです」 「え~!」
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