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このふたりきりの夜に愛をこめて
静かな部屋の中に、とぽとぽと珈琲を淹れる音が満ちる。
丁寧な手つき。
丁寧な時間。
優しく流れていく夜。
ふわふわとやわらかな細い銀髪に片眼鏡をかけ、皺ひとつないワイシャツと焦げ茶色のベストをまとった老紳士が、穏やかな声で店の奥へと声をかける。
「アスさん、テーブルのお花を片付けていただけますか?」
「はーい」
食器を洗い終えたアステリズムは、綿菓子のように甘く煌めく金色の癖毛を揺らして、とてとてと厨房から出ていく。
小さな店内にこぢんまりと並んだいくつものテーブルの上を手際よく片付け、テーブルの上をさっと布巾で拭く。
「トワイライトさん、明かりつけるね」
「ええ、お願いします」
アステリズムが椅子の上に乗り、天井から吊るされた、星をかたどった白いモービルのうちの一本をえいっと引く。
とたんに、ぱっと店内に優しい光が満ちた。
たまご色に揺らめく丸い電球。
天井と壁に蔦のように巡らされたイルミネーションの粒が一斉に灯り、店の中が星明かりに満たされる。
落ち着いたお洒落なインテリア。
カウンターや壁際、テーブルの上……店のあちこちに並んだ、古い大きな時計、もう動くことのない腕時計、蝋燭、古めかしい本、陶磁器。
綺麗に磨かれた銀色の呼び鈴。
ゆらゆら揺蕩う、淹れたての珈琲の香り。
ほんのりあたたかな室温。
毎日見ている景色なのに、それでも毎日、わあ、と息を呑んで電球に見惚れる少女。
静かに微笑む老紳士。
ここは喫茶店であり、骨董品店。
《ルナ・エクスプレス》
小さな夜に奇跡を起こす、小さな魔法をくれる場所。
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