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「わけあって君にあの頃を思い出すのは不可能だが、君はかつて、この星の生命を誕生させた九の神の一体。知と秩序を司る神、パーシェルだ」
そう吾に教えた白い男は、自分は太陽の神であると告げた。同時に、ソウジュという名前を名乗る。吾の伝え聞いた「太陽の神」の名前とは違うし、ソウジュというのはすでに消滅したと記録されている「雪の神」の名前のはずだが……。
「……聡明な君のことだから、気付いて思うところもあるのだろうが。知っている事実に関わらず、名乗った通りに呼んでもらえたら嬉しい」
珍妙な事態ではあるがそう頼む顔が切実に過ぎるので、事情を訊かず望まれた通りにしてやることにした。
「このような言葉を選ぶのは申し訳なくはあるが……生まれ変わった僕達の中で君だけは、不完全な神となってしまった」
そうなってしまった理由。「秩序の神」は生命の罪を裁量する役目を持っていた。いくら神であろうと他者を裁くという務めには精神の負担が伴うもので、吾の先代は役目を果たすために足枷となりそうな感情を切り捨てた。その結果、発生した例外が吾である、と。なんとも迷惑な話ではないか。
「神の力は先代が持っていて君にはない。パーシェルが身を守るためには、僕が持つ神器のように、君のための神器をこの世界のいずこかから探し出さなければならない」
吾のための神器がどこにあるのか、ソウジュも未だ手がかりは掴めていない。ゼロの地点から探らなければならない、長き捜索の旅はこうして始まった。
半世紀近くを費やしてようやく、神器のありかに辿り着いた。それまでも不確定な情報に躍らされて出向いた場所は数あれど、どこも不発だったのだが、今度こそは間違いない。
「しかし、よりにもよってノーイル山脈の奥深くとは、過酷な……」
ルカ大陸を南北に両断する、険しき雪の連峰。後の時代には人力で移動をし易くする交通網も築かれたが、吾の生まれた時代にはそれは望めず。徒歩で挑むほかなかった。
「それだけ、怖れられていたということだよ。君のための神器は、人という種族を直接に滅するものだから」
罪のある生き物が手に触れた瞬間、全身を焼失させるという我が神器。幼子といえど小さな嘘をついたことくらいはあるはずで、必然、その神器に手で触れて無事である者など生まれたての赤ん坊くらいのものだろう。
吾とソウジュは神の体で、凍てつく雪の中で食事を摂れなくても死にはしない。逆に言えば、どれだけ過酷であろうが自然に死ぬことは叶わない。ゆえに、そうした準備は重視せず、我々は愚直に雪に包まれたノーイル山脈に踏み入った。空腹はなるべくなら勘弁願いたいところではあるが、生憎、この体は幼い頃から空腹には慣れている。
「……少し、休もうか」
山道で遅れ始めていた吾を振り返り、ソウジュは十数歩以上は離れていたこちらまで戻ってくる。我々の旅が始まってからというもの、幾度も繰り返された、情けないやり取り。吾と行動を共にするようになるまでは戦士として生きてきたソウジュは、吾と体の鍛え方が違う。踏み出した一歩は同じでも、長い時間を歩いているうち、吾の足が追い付けなくなる……。
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