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かくして、雪山をさ迷ったのは何年……それとも数か月、数日だったのか。もはや特定するのは困難だが、吾のための神器の祀られた洞穴に辿り着いた。
この場所がいかにして選ばれ、神器がどのように運ばれたのかはわからない。まともな人間が触れただけで焼死するというのに。ただひとつの事実として眼前にあるのは。吾の身丈よりほんの少し長い柄をした大きな草刈り鎌に、小柄な白骨遺体が抱きついているという景色だ。
わからないなりに見たままを想像するのなら……生まれてから一度も、ささいな嘘をつくという罪すら犯したことがないという稀少な人間が存在して。この大鎌を封じるために雪山を登り、この場所で力尽きた。……そんなところだろうか。
生命を作りだしたことを悔やまない。人間の営みの善性を信じたい。そういった思想を語り合って間もなく、「ああ、こういった犠牲を強いるのも、人間の営みか」と思い知って、一気に疲労感が込み上げてくる。
何はともあれ、今後は運命を共にする神器をこの手に掴んで、一言伝えることにした。
「吾はパーシェル。我が神器、エリーよ。これから、よろしく頼む」
吾の体格に全くそぐわない大鎌に、はたして使いこなせるのだろうかと思ったが。持ってしまえば羽のように軽いので拍子抜けした。
「お疲れ様。本当に、これまで長い旅だった」
「まったくだよ。そも、帰り道だってまだ残っているぞ」
「そうだね。とりあえず、この雪山を下りて、君に案内したい場所がある。そこに君を送り届けたら、僕達の旅は終わりだ」
「ふむ……謀があるのなら、旅の終わりまでなどともったいつけずに、この場で開示してもらおうか」
何やら含みを感じたのでそう吹っかけてみると、さすがにパーシェルに隠し事は通用しないか、とソウジュは苦笑する。
「『太陽の神』として、僕から君に望むことがある。ひとつだけ」
「……いわゆる、『最高神として命じる』というやつかな? 伝承によると、その文言で命じられると、他の神々には拒否権がないという」
「まさか。そんな強権を用いる必要はない。ソウジュとしての僕の、個人的な願望に過ぎないからね」
強制力があろうがなかろうが、彼の性格からして無理難題を言いつけられるとは思わない。吾としてはどちらだって構わなかったが。
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