9人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕と他の神々は、これから神話時代の終わる『約束の日』までに、お互いの守るべきもののために殺し合う。そういう未来が待っている。パーシェル、君だけはすでに、その争いの渦中から外れている」
「ほう……吾には愛すべき故郷も、守るべき者も何もない。と、いうことか? 柄にもなく、酷薄な真実を告げてくれるじゃないか」
「そこまで言うつもりじゃなかったんだけど……要するに、僕も、他の神々も。あの雪の日から始まった創世の時代から、すでに過ちと罪を重ねている。未来に救いを求めるなど許されていないんだよ……特に、僕のこの手は、罪なき者達の血で穢しすぎた」
「つまり、吾だけが例外というのは……『雪の思い出』の時代、吾だけはまだ存在しない神だったからということか」
「そう。だから、僕達から君に望むのは……人の世の罪に触れない程度に、自分の享楽を求めて。幸せに生きて欲しいということだ。君の神器、エリーも、かつての僕が定めた役目通りに使わなくていい。君は神器を、神器は君を守る。そのためだけに使えばいい」
神器の本来の役目とは、罪を犯した者を裁くために振るう。それをしなくていいとなると、すなわち。
「神としての吾はお役御免もいいところであるなぁ」
「秩序の神としての役目は先代が務めているから、君は知の神として、自分の望む探求を続けてくれればいい」
「結果として、知的探求は吾の幸いそのものであるから、と。なるほど……吾にとって都合が良すぎるという点を除いては、実に良く出来ている」
「引き受けてくれるかな……僕達の生み出した命は悲しみだけではなく、幸せな営みだって見せてくれる。雪の神が信じていたように、僕もそれを感じられるなら……太陽があの雪を溶かしたことが間違いだったと、後悔しないで済むから」
他の神々には託せないその願いを、不完全な神である吾にだけは望めるというのか。
「相分かった。他ならぬ貴殿の望みなら、吾はいかに世間に咎められようが、己の幸福の追求を目指そうじゃないか」
元より吾は、単独行動では我が身を守る術を持てなかった。自分の神器を取り戻すことが出来たのは、この長い旅路にソウジュが付き添ってくれたゆえの恩恵なのだ。その恩には何としても報いてやらねばなるまい。
最初のコメントを投稿しよう!