背中のもの

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 電車内は、相変わらずのすし詰め状態だ。私は、周囲の人にぶつからないように気を使いながら、自分のローファーの少し剥げた先をじっと見てから、背伸びをしなければ届かない手すりが揺れるのを見ていた。  そんな時に、私はふとこの前のことを思い出していた。  あの日の私は、咲奈(サキナ)の恋愛話を聞いていた。  最初は目で追っているだけだったのに、そのうちにもっと気になりはじめて、やがて気持ちが抑えられなくなった。きっとこう言うのは、よくある話なのだろう。  恋をすれば誰でもそうなのかもしれないけど、一番身近な存在である私が聞き役になって、咲奈は心の内をほぼ一方的に話すようになっていた。 どんなものが好きなのだろうか。 どんな趣味なのだろう。 どんな女の子が好きなのだろう。 私の事、どう思ってるかな。 等々だ。  でも、中学生時代に憧れる人はいたものの、そこまで人を好きになった事がない私には、返せる言葉が少ない。 だから、咲奈が私にそう尋ねる度に、 『そうだねぇ〜』 とか、 『合うと良いね』 とか、 『きっと気に入ってもらえるよ』  等の返答をしていた。      そうしているうちに、図書室の前で、お互いがながらスマホで不注意にもぶつかって、それがきっかけとなって、咲奈から告白して二人は付き合うことになった。
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