背中のもの

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背中のもの

 朝起きて、洗面台で顔を洗ってから部屋に戻って、いつものように鏡の前で髪にブラシを通して、向こう側の私を見ていた。 なんてことのない、たまご型の輪郭には、やや細い両目と、控えめの鼻、それから厚めの唇がある。 肌は、日に当たっていなくてもやや褐色で、決して色白とは言えない。 それに髪のコシが強めなので、本当はショートヘアにしたいのだけど、そうすると髪型が爆発しないので間違いがない。 本当は、ストレートパーマとか当てると良いのだろうけど、親にそのお金を出してなんて言えないまま、私は毎日を過ごしている。 そういう部分では、親を頼りたくはないんだ。  高校生の今は、親にアルバイトを止められてるけど、大学生になったら絶対にして、この髪の毛をショートボブにするんだ!  出来れば、おしゃれ女子御用達の、紅茶とレモンタルトが絶品の喫茶店『ヴォカリーズ』で働きたい! あそこのカフェスーツ、すごくかっこいいんだ。 白のウイングカラーシャツに、赤のリボン。ベストは黒色で、光沢のある刺繍は光を反射すると、薔薇の模様が浮かびあがる。細身のパンツはマットなグレイで、足元は黒のパンプスだ。あれが似合うのは、ポニーテールか、髪を短くするかだと思ってる。  私の場合は、絶対にショートボブにするんだ!そして、あのカフェスーツを着る! とはいえ、それはあくまでも、未来の話なので、私は仕方なく、肩甲骨まである髪を三つ編みでまとめる。留めゴムは、本物の陶器で出来ているティーカップのミニチュア付きのもので、中の紅茶はアクリル製の半透明で、カップの中で程よく傾いている。
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