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部長殴打事件
男子バレー部の部長が救急搬送された。
どうやら何者かに殴られたらしい。
彼は救急隊員に対し、「何があったのか覚えていない」と言っている。
警察に出動を要請すべきか、先生方は緊急の会議を開いた。
第一に優先するのは彼の意思。
部長は「大ごとにしたくない」と言う。
第二に優先するのは彼の家族の意思。
家族は「大ごとにしたくない」と言う。
第三に優先するのは私たち部員の意思だけど、先生方はそれよりも体面を気にしている。
学校内で起きたこの事件。
第四に優先するのは先生方の意思。
先生方も「大ごとにしたくない」と言う。
私はどきどきしながら、事の経緯を見守ったが、学校としては、部長の意思が最優先とのことで、大ごとにしない決定がおりた。
でも、みんなは犯人は誰かと話し合う。
ストーカーだろうか、変質者だろうか、盗みに入った者だろうか、何かの巻き添えを食らったか。
私はひとり、倉庫の片付けをしていた。
埃の臭う室内では、それに酔わされている気分になる。
そこへ、部員の女子が入ってきた。
彼女はまるで勝ち誇ったように、私を指さして言った。
「犯人はおまえだ!」
そして彼女はふふっと笑い、手で団扇をしながら理由を述べた。
「まあねえ、部長はあんたのカレシだからね。それが浮気してたとなったら、頬の一つも張りたくなるって。その浮気相手があたしだってなったら、真実を知る者はみんな口をつぐむ。大ごとにしたくないとはよく言ったもんだわ。結局アイツは、自分が被害者でいたいだけよね」
私は黙々と倉庫の片付けをする。
そうしながら、私と彼女と部長、誰が一番悪いのかを考えていた。
結論としては、
ヒトが持つ不埒さや不誠実さが最大の悪だと結論づけるに至った。
まあ、好きな人にはモテたいし、ちやほやされるならされたいよね。
私だって別に、部長に一途なわけじゃないしさ。
彼を殴ったのはプライドよ、プライド。
やましいところを探られないうちにプライドに任せただけ。
分かる人には分かるよね。
というある日の午後でした。
end.
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