決別の時 3

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決別の時 3

作戦はこうだ。 今度王宮で行われる舞踏会。 そこでキッチリ落とし前をつける。 そう決心したのには、フォルベリッドなりの理由がある。 貴族家当主たちはもちろん、成人しているフォルベリッドにも招待状が送られてきたため、親切にも『婚約者』に迎えに行くと連絡した。 それなのに、いまだその返事が来ない。 もうもはや『無視』とかそういうレベルの話ではない。 これは立派な『婚約解消案件』ではないだろうか。 しかし今までフォルベリッドに会おうとすらせず、ある程度時間が経ってから侯爵家から追い出すか、エミリーに対応させて満足しただろうと言わんばかりに侯爵家から追い出すのだ。 そのことに傷つかなかったわけではないのだから、いっそのこと慰謝料だって請求していいかもしれない。 「こちらが伯爵だからって、馬鹿にされっぱなしってことはないだろう?」 「そう…そうだよな!うん!さすがダールだ!」 そうだ!たとえ父親が伯爵位だからといって、自分が馬鹿にされる謂れはない! 何せ自分は男で、侯爵家の跡取りとなる人物で、あちらは女で、次期侯爵の妻になるだけなのだから! 将来の身分に気持ちを持ち上げられ、フォルベリッドはグッと拳を握った。 ダールダンは父たちが話していた商談のことを思い出しつつ、だがそのことをフォルベリッドに告げるつもりはない。 どう転んでも面白い出し物になるはずだ──フォルベリッドの思いつきが父親に潰されなければ、だが。 それにこれは今流行りの『悪役令嬢が本当は被害者』だとか『婚約破棄から始まる真実の愛』だとかの恋愛小説や劇に昇華されるに違いない。 そうなれば衣装屋や劇作家への依頼、移動式の舞台装置を扱う者たちを仲介するなど、いろいろ商売の種が転がっているのが見える。 将来の商会長様は頭の中でそこから生じる利益を皮算用し、父に何とかその舞踏会の招待状を手に入れてもらうのと商会の者を潜り込ませるように進言しようと考えていた。 それはそうと── モジモジとフォルベリッドは赤くなりながら、ダールダンに別の相談を持ち掛けた。 「ん?何だい?」 「いやぁ~……」 照れたような顔をしている友人の頭の中でどんな色の花が咲いているのかと面白がりながら、ダールダンはもちろん承るつもりで問い返す。 しかし、なかなか話し出さない。 もう嫌になるくらい、モジモジモジモジモジ…… 「早くはな…おっと、予鈴だ」 「うっ…あっ……いやっ!あのっ!ド、ドレスだ!」 「ドレス?」 確かに次の授業開始の鐘が厳かに鳴り響き、急ぎ足で自分達の教室に戻る生徒たちを視界の片隅に認めながら、ダールダンは立ち上がりかけた膝から力を抜き、次の授業のことなど気にしていないというふうに座り直す。 「あっ…ああ……その……サ、サイズのわからない令嬢の、ドレスというのは、し、仕立てられる……ものだろうか……」 「はぁ?」 これはこれは…… 難題中の難題と言えなくもない質問に、思わずダールダンは目を瞠った。
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