手に手を取って 2

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手に手を取って 2

フォルベリッドが少女を伴って馬車に戻ってくると御者や従者はギョッとして目を瞠ったが、ヴィヴィエト侯爵家の者たちが誰も止めようとはしないのを見て、これはちゃんと許可されたものだと理解して、フォルベリッドの合図で恭しく扉を開いた。 見たことのない少女ではあるが、立派なドレスと装飾品、そしてパラトゥース伯爵令息が丁寧にエスコートしているのを見れば、下に置いていい人物ではないと思えない。 であれば使用人としては礼儀を尽くすほかなく、少女に手を貸して馬車に乗せ、続いて乗り込んだフォルベリッドが出した合図のとおりにゆっくりと馬車は動き出す。 きっとあの気の利いた従僕であるフィリベールが手を回したに違いなく、門は問題なく開かれ、フォルベリッドはとうとうエミリーティーヌを連れ出すことに成功した。 これからどうしたらいいのか──一瞬迷いはしたが、それは目の前に座る少女を見れば、そんな悩みなど取るに足らないように思える。 フワフワのドレスだけでなく、身に付けた装飾品もとても良くエミリーティーヌに似合っている。 それはまさしく細部に至るまで誂えたかのように── 「……でも」 「うん?」 「いえ、このお飾りに、フォルベリッド様のお色が入っていたら……なんて……い、いやだわ、わたくしったら……フォルベリッド様は、いずれわたくしのお義兄様になるのに……」 にやけそうな口元を引き締め、だが失礼にならない程度にエミリーを眺めていたフォルベリッドの目が丸くなり、一瞬にして努力は泡と消えた。 こんな嬉しいことを言って頬を染めるエミリーティーヌの可愛らしさといったら── フォルベリッドはガタガタと揺れる馬車の中で腰を上げて、素早くエミリーティーヌの横に座った。 「あっ……お、お義兄様……」 「今さらそんなふうに言わないでくれ!」 先ほどまで『フォルベリッド様』と呼んでくれていたのに、突然言い方を改めるなんて他人行儀な態度に、思わずフォルベリッドは悲鳴を上げた。 「ああ!どうして……どうして、君じゃないのか……僕の愛する人は」 「いけませんわ!貴男様は……」 「言わないでくれ!どうか…ああ、この狭い二人きりの、この時間だけは、どうか貴女の心に素直になって……」 「あぁっ!フォルベリッド様っ……」 今度こそ抱きあ──おうとした二人はガクンという衝撃で動きを止め、思わず息を潜めた。 まさか何か問題でも── コンコン。 「お屋敷に着きました、フォルベリッド様」 「えっ……あっ、ああ……」 あたふたと慌てたが、聞き慣れた自分の専属従僕の声に今さらながらエミリーティーヌの向かいの席に座り直した。 パラトゥース伯爵夫妻は、もちろんヴィヴィエト侯爵夫妻と同じようにすでに屋敷を出てしまっている。 それをわかっていたからこそ、フォルベリッドはエミリーティーヌを自分の住んでいる屋敷に連れ帰ったのだ。 しかし本当ならばフォルベリッドも、ヴィヴィエト侯爵家で『婚約者』をエスコートしてそのまま王城の舞踏会へ向かう予定だったのだが。 「……フォルベリッド様。もうそろそろ、さすがに」 「うん?あ、そうか。では、一緒に行こう、エミリー嬢」 「えっ」 それは呼びかけられたエミリーティーヌだけでなく、従者や応接室に控えていた部屋侍女(パーラーメイド)までも目を瞠り思わず声を上げた。 「いやいやいやいや……さすがにそれは駄目だろう!フォル⁈」 「え?何で?」 「何でって……そちらの…エミリー嬢?だったか?……見るからに、まだ成人してな…されていないだろう?」 「大丈夫だ。僕の『婚約者』として連れて行く」 「はぁっ⁈」 突然専属従者の口調が軽々しくなり、愛称で呼び出したのをエミリーティーヌはキョトンとした顔で見つめた。 「何言ってるんだよ!お前、だいたいどうやって会場に入る……」 「どうやって?僕にはちゃんと『婚約者』がいるんだから、彼女の代わりに連れて行っても良いだろうが!」 「良いわけがあるか!」 そう言えば『婚約者』のデビュタントの時もまだフォルベリッドは成人の扱いでなかったため、彼にエスコートの依頼はなく、彼女は父親と参加したと友人から聞いた。
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