宣告と決別 4

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宣告と決別 4

かっこいい──自画自賛で胸を張ったフォルベリッドに、先ほど焦ったような顔を向けた『婚約者』が再び口を開いた。 「あの……いったい、何のお話でしょう?」 「は?」 「その……あの、貴男様、は……」 「アーベル?その者は?」 「殿下……その、あの方は……」 『婚約者』がようやく口を利いたが、その台詞はフォルベリッドが期待していた謝罪ではない。 しかも無礼千万なことに、フォルベリッドよりも自分の横に立っているキラキラしい男の顔色を伺うように目を伏せるなど、何という──何というふしだらな女なのだ! 「おい!君は…君は、婚約者以外の男と言葉を交わすのか⁈『貞節であれ』とヴィヴィエト侯爵家では教えられていないのか⁈」 「フォ…フォルベリッド……」 「素敵ですわ…フォルベリッド様……いえ、そうですわ。お姉様」 自分は傍らに『義妹』を従えているのを棚に上げ、フォルベリッドの指摘という名の攻撃は続いた。 すっかり青褪めた父親の呟きより、うっとりとしたエミリーティーヌの声にさらに気を良くする。 「お姉様……いつもいつも、お屋敷を留守にしてどちらにいらっしゃったのですか?フォルベリッド様…とお会いすることもなく、その方と逢引きなさっていらっしゃったのですか?」 「エミリー……そんな失礼なことを……」 「失礼なのはお姉様ですわっ!」 姉にオロオロした声で窘められると、逆に勢いづいてエミリーティーヌはズイッと足を踏み出して背筋を伸ばした。 「いつもお姉様はフォルベリッド様からの贈り物を『困った』とおっしゃっていたではありませんか!」 「な、何だってぇ⁈」 エミリーティーヌは叫ぶように姉を糾弾したが、その内容を聞いて大声を上げたのはやはりフォルベリッドで、その勢いのまままた『婚約者』に向かって指差して声を荒げる。 「ぼっ…僕がせっかく送って、送ってやったのに……!」 「……貴男様からいただいたのは、ベルシフォット商会で一番お安く手に入れられる花の栞と、『妹を蔑ろにするな。大切にしろ』というお叱りを綴ったお手紙がほとんどですわ。それにとても……」 ゴワゴワに皺の寄った手紙は持っているのが困難なほど匂いがキツかった──とは貴族令嬢の口からはとても言えず、再び困った表情を隣に立つ素敵な男性に向ける。 エミリーティーヌにとっては自分の手を取ってくれたフォルベリッドも十分素敵だが、姉に寄りそっているその男性はとても素敵で──素敵すぎる人だ。 何故、先に生まれたというだけで姉は『素敵な婚約者』も『素敵な浮気相手』も手に入れられるのか。 ズルイ…ズルイ……ズルイ、わ。 エミリーティーヌの心に仄暗い気持ちが芽生え、姉を傷つけたいという衝動に駆られる。 「どんなにお気に召さなくても、『婚約者』様からいただいたものならば、肌身離さずお持ちになるべきでしょう⁈知っていますのよ?お姉様はいただいた栞はすべて箱にお仕舞になって、お手に取ってもいらっしゃらないのを!」 「そ、それは……」 「何だってぇ⁈そ、そんな……ひ、一つも使っていない……?」 「そうですわ!フォルベリッド様がお姉様のために贈られた物なのに……」 そんな気合の入った贈り物ではなかったし、別にフォルベリッドが直々に選んだ物でもないが、さすがに一度も使われないというのは信じられない。 いや──大切に思うあまり、鍵のかかる宝箱にしまうというのならばあり得るだろうが、エミリーティーヌの言っている感じではそんな扱いではないようだ。 「しかもお手紙はほとんど読みもせず、贈り物を入れた箱と一緒にお屋敷の離れの倉庫に入れておしまいになって……」 俯いたエミリーティーヌを抱き寄せ、フォルベリッドはギリッと歯ぎしりをして『婚約者』を睨みつける。 贈り物を自室に、誰の目にも触れぬようにと仕舞いこむならともかく──いや『誰の目にも触れない』という扱いなのは間違いないが、それが使用人に持ち運びさせる倉庫に入れっぱなしにするなどとは言語道断だ。 いったい彼女は何を考えて『婚約者からの贈り物』をそんなぞんざいに扱うのだ!
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