誤解と理解 1

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誤解と理解 1

大会場にいる貴族たちは皆、広く開けられたダンスフロアでふわりとドレスの裾を翻し、軽やかに、ピッタリと同じタイミングで王と王太子それぞれに腰を抱えられて回転させられる二つの花に視線を集める。 むしろ意識して、腕を組んではいるがそれぞれ暗い表情のパラトゥース伯爵夫妻と、貴族としてはあるまじきことに口を塞がれ腕を拘束され持ち上げられるように連行される二人の若い男女の方を見ないようにしていた。 見たら、少しでも噂しようと口を開いたら、クスッとでも笑おうものなら──あの列に続くのは自分だ。 そう思えば強靭な意思を持って意識を逸らし、全力で王たちとは別の動きをする者たちを見てはいけない。 まさしく全員一致。 だが王宮の奥に連れて行かれようとする際、モゴモゴと何か叫びながら藻掻いていたフォルベリッドの口枷がわりの布がズレ、一瞬だけ大声が響いた。 「アーベルティーヌゥゥゥゥゥ───ッ!!婚約者である僕、ムガッ!」 活きの良すぎる魚のように跳ねて暴れるフォルベリッドを捕らえ損ねたが、それ以上不敬罪を重ねないようにと動いたのは、父親であるティリベリアン・ドゥ・パラトゥースだった。 「……お前がどうして王太子殿下の婚約者であるアーベルティーヌ嬢を自分の婚約者と誤解したのか、まったく理解に苦しむ。まずその愚かな思い込みに至った経緯を、国王陛下の御前にて告白させるつもりだったが……ご厚意により私たちに説明する時間を設けて下さった。頼むから……お前を処刑させるような、これ以上の失態を犯さずにいてくれ……」 周囲に訊かれないようにグッと抑えた声だったが、ここ数十分の間で一気に老け込んだような父の懇願に、さすがのフォルベリッドも藻掻くのを止めた。 自分は何かとんでもない間違いをしたのかもしれない──フォルべリッドはようやくそのことに思い至ったが、それがどの時点でなのかがわからず、しかし父の言うとおりに大人しくしなければこのまま言い訳も言い分も、そして愛しい人との婚姻を願うこともできなくなるのかもしれない。
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