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説明と罰 1
まずは最初の掛け違い──
「……だって、同じ年だったから」
「…………は?」
プンと拗ねた顔をしたフォルベリッドが自分を見つめる人々の視線を避けるように、テーブルから斜め下に視線をやりながら呟く。
その投げるような言い方に、パラトゥース伯爵だけでなく夫人も唖然とした。
「僕とアーベルティーヌは」
「アーベルティーヌ様、だ。すでに婚約は為され、準王族の姫君なんだぞ」
「……アーベルティーヌ、様、は」
兄からすかさず訂正が入り、小さく舌打ちをしてからフォルベリッドはつっかえながら言い直した。
「僕と、同い年だと言われた、から……」
「言われたから、何だ?」
「……兄上」
父ではなく兄に諭されるように問いかけられ、フォルベリッドは反射的に睨みながら呼びかけた。
だがバリチアンは馬鹿にしたような笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「『言われたから何だ』と聞いている。そんなことを言ってしまえば、お前の先輩方の妹君の半数はお前と同い年だ。彼らの家にでも呼ばれたり、連れ立っている時に顔を合わせ、礼儀として紹介されることもあるだろう。その場合、その令嬢はお前の友人か恋人となるのか?」
「こっ……」
「そうではあるまい?同い年だろうと、たった一回会っただけではほぼ他人だ。数回顔を合わせようと、『兄の知り合い』程度だ。決してお前に恋い焦がれる恋人ではない」
「そっ、それはそうだろっ……僕だってそんな失礼なことを思いはっ……」
「だが、お前はその『失礼』を犯した」
「ウッ………」
「それがいったいどうして起こったのか、と聞いている」
「それは………」
どうして
それはこっちが知りたい。
何度考えてみても、フォルベリッドの記憶の中では『同い年のアーベルティーヌ嬢を紹介された』しか記憶になく、エミリーティーヌを認めた途端、世界は眩しく輝き音が消えたのだ。
つまり──その後から何も聞いていなかったのである。
「……………なるほど」
ズン…と見えない岩に押し潰されたようにパラトゥース伯爵は組んだ両手の上に額を当てて俯いた。
まさかのまさか。
あの時突然固まって返事もしなかったが、単に息子が初めて会う令嬢たちに緊張しただけだと思っていた。
だがそうではなく、アーベルティーヌ嬢に続いて紹介されようとしていたエミリーティーヌ嬢に意識も注意力も奪われ、親の話を何も聞いていなかったのである。
「……あの時、お前には『婚約者となるエミリーティーヌ嬢』と紹介した」
「え?」
言われたっけ?
フォルベリッドは首を傾げる。
だがその言葉を訂正したのは覚えていなかったフォルベリッドではなく、その場にいなかったはずの兄だった。
「父上……そのことに関しては、大いに愚かなる我が弟の責だけではなく、父上にもあります」
「わ、私……?」
ギョッとした顔でパラトゥース伯爵は自分と同じソファに座る長男に視線をやった。
「ええ。あの日、父上たちに同行した従者が嘆いていましたよ。『あの紹介の仕方では、フォルベリッド様はどちらのご令嬢とご婚約されたのかわからなかったのではないか』と」
うん?と首を捻ったが、パラトゥース伯爵もヴィヴィエト侯爵も、どちらもそんなにおかしいことは言っていないはずだ。
「父上もヴィヴィエト侯爵閣下もご令嬢を紹介されただけで、アーベルティーヌ様は当時すでに王太子妃候補であるとはおっしゃらず、エミリーティーヌ嬢が姉君と離れたくないと言われたために同席することになった…という説明を省かれた、と」
「……………は?」
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