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説明と罰 2
ヴィヴィエト侯爵閣下:「改めて紹介しよう。十歳を迎えた姉のアーベルティーヌと、もう間も無く七歳を迎える妹のエミリーティーヌだ。本来ならば同席させるのはどうかと思うのだが、『離れたくない』と駄々を捏ねられてしまってね」
ヴィヴィエト侯爵閣下:「姉妹仲がよろしくてけっこうですな。我が家は男兄弟のためか五歳の差があるとはいえ、もう互いを好敵手と競い合っておりますよ」
ヴィヴィエト侯爵閣下:「いやいや、それぐらいの気概がなければ、我が家の姫を守れないだろう」
ヴィヴィエト侯爵閣下:「確かにうかうかしては、あっという間に隣に立つ権利を奪われてしまいますでしょう。そのためにもしっかりと教育を施す所存です」
ヴィヴィエト侯爵閣下:「うむ……君のその姿勢には感心する。そういえばここにいても子供たちは退屈だろう。アーベルティーヌ」
ヴィヴィエト侯爵令嬢アーベルティーヌ様:「はい、お父様」
ヴィヴィエト侯爵閣下:「フォルベリッド君を庭に案内してあげるがいい。失礼がないように」
ヴィヴィエト侯爵令嬢アーベルティーヌ様:「はい。こちらへどうぞ、フォルベリッド様。エミリー、参りますよ」
ヴィヴィエト侯爵令嬢エミリーティーヌ様:「はい、おねえちゃま!」
「………何だ、これは」
「父上がフォル…フォルベリッドを連れて、婚約者の顔合わせにヴィヴィエトを連れて行った際の会話です」
「う…うむ……た、確かにこんな会話をした……か……?」
「覚えていらっしゃらないのも仕方ないかもしれませんが」
自分の従者に指示をして、予め用意してあったものを国王と自分の父の前に置かせた。
それをざっと読んだパラトゥース伯爵が顔を顰めたのを見て、まあそうだろうとバリチアンは肩を竦める。
「この日は母上は以前から招待されていた茶会に出席され、ヴィヴィエト侯爵夫人もご出席されていました」
「あ、ああ……」
そう、そうだ。
わざわざ夫人が不在のその日、当主同士が顔を合わせたのは──
「母上が反対されていた投機のことで、お二人で話があったのですよね?」
「……貴男?」
何故自分の息子が王太子妃婚約者の令嬢と、本当の婚約者とを取り違えたのか──意味がわからず、そして同席の理由をようやく悟り、パラトゥース伯爵夫人の声が低く響く。
その声音の意味を知る伯爵がビクッと肩を竦めたが、それには構わずバリチアンはさらに説明を進めた。
「そちらはまあ……利益は微々たるものですが、損失を出しておりません。いずれは見極めねばなりませんが……ご覧になっていただければ、ご当主どちらも我が弟の耳と目と理解力が正常に機能しているか確かめることなく、この後さっさと追い出したこともお分かりいただけるかと」
「……いや、しかし…そんなことは……」
「父上。しかも父上は気が急いていたのかもしれませんが、行きの馬車でも『今日はお前の婚約者となる令嬢と初めて顔を合わせる。あちらの方が上のご身分ゆえ、失礼の無いように』としか言い含められなかったと、同乗した記録者を兼ねた従者のガバーランドが言っていましたよ?」
「貴男⁈」
今度こそハッキリとした非難を込めたパラトゥース伯爵夫人の声が夫に向けられ、誰もが黙り込んだ一瞬に扉横に控えていた従僕が新たな入室者の到着を告げた。
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