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説明と罰 3
悄然とした様子で入室してきたのは、ヴィヴィエト侯爵夫妻だった。
本来ならば未来の外戚として輝かしくあるべきだろうが、突然始まった笑劇のおかげで暗雲が立ち込めている。
声もなく、ただお辞儀をしてから入室する二人は王太子たちが座る位置に案内され、国王陛下夫妻の後ろに控えるのを見てから、促されてパラトゥース伯爵たちの向かいに座った。
「……夫人にはずいぶん刺激が強すぎたようだが、気持ちは落ち着かれたかな?」
「……お心遣いいただきまして、ありがとうございます」
座ったままヴィヴィエト侯爵夫人が軽く状態を倒したが、その背中に夫が手を添えると少しだけツンと顔を背けた。
その様子に侯爵はギッと一瞬だけ怒りを露わにしたが、さすがに国王陛下夫妻と王太子殿下、そしてその妻となるはずの長女の前だということを忘れなかったらしく、唇を噛んで視線を自分の膝に落とす。
「ヴィヴィエト」
「……はっ」
「此度の件、そなたの下の娘御とパラトゥース伯爵の下の息子が起こしたものではあるが、きっかけはそれぞれの父親が関わるべき夫人を排して進めたせいと認識しておるが、相違ないか?」
「はっ……恥ずかしながら、当日パラトゥース伯爵と仕事上の話をしたことは覚えておりましたが、彼らの顔合わせの際に何を話たかなどは記憶になく……しかし、はい、この会話を聞き留めていた者の記憶力と速記能力を私も確認させていただき、間違いないと……」
「そうか……」
特に言い訳することもなく、とにかく婚約を整えた後の方が大事だったと認めたため、国王は大きく溜息をついた。
その呆れた表情を作る国王にチラリと冷たい視線を送った王妃陛下が、おもむろに口を開く。
「ヴィヴィエト侯爵夫人、パラトゥース伯爵夫人」
「……はい」
「はっ、はい」
落ち着いた様子のヴィヴィエト侯爵夫人と違い、ビクッと大袈裟なほど肩を揺らしたパラトゥース伯爵夫人それぞれに優しく微笑みかけ、王妃陛下は落ち着いた声で言葉を続けた。
「此度、そなたたちは何があったかと未だ混乱の中にいるでしょう。心落ち着かせるため、今宵は王城にて休息することを許します。アーベルティーヌ、そのように手配を」
「はい、王妃陛下」
「……はい、お心遣いいただきまして、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
それぞれの貴婦人が頭を下げたり侍女に合図をする間、侯爵当主と伯爵当主はそれぞれ顔を赤くし冷や汗を浮かばせる。
「王妃よ…今はそのような」
「まあ!殿方の都合だけが優先されますの?そのせいで此度の騒動が起こりましたのに」
「うっ…うむ……」
今回の婚約破棄騒動に直接関わっているわけではないが、国王はこの国の全男性貴族代表として口を噤んだ。
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