出会った『運命の君』 2

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出会った『運命の君』 2

「ほぁ……」 間抜けな声だったが、押さえられなかった。 美しい金髪は一筋の乱れもなく、伏し目がちな顔はまさしく白磁。 大人びたその表情はとても同じぐらいの年齢には見えず、しかも何やら厳しさを感じてフォルベリッドはビシッと固まった。 しかしそんな彼の視線を『婚約者』から引き剥がしたのは──彼女に手を引かれたひと回り小さな、金色の天使。 「久しぶりだね、パラトゥース伯爵も、フォルベリッド君も」 「はっ。ご無沙汰致しております、閣下」 ピシッと言う音が聞こえそうなほど父は姿勢を正して、腰から上を斜めにした。 思わず少女二人に気を取られていたが、さりげなく父に肩を触られてフォルベリッドはハッと気づいてガバッと大袈裟に頭を下げる。 「ハッハッハッ!我が家の姫たちにそこまで敬意を表してもらえるとは光栄だよ、小さな紳士君。さあ落ち着いて座りたまえ」 「はっ、はい!」 言われて遠慮することはない。 父が微かに「あっ」と呟いたような気がするが、フォルベリッドの目は侯爵の横に立つ少女たちに釘付けで、そのままストンとソファに座った。 ジッと目を逸らさずにいる少年に向かってスッと表情を消す年上の少女と違い、小さな天使はちょっとだけ恥ずかしそうに顔を伏せたかと思うとチラリと上目遣いにこちらを窺って小さく笑う。 ああ──この世のどんな美しい宝石より、きっとあなたの方が美しい。 もちろん小さな脳みそに浮かぶ語彙など単純に『可愛い』でしかないのだが、もし自分が大人だったら彼女を褒め称える言葉を尽くしてその心を得たいと願うのに。 ああ、自分の『婚約者』は残念ながら彼女ではないのだ。 そう思うと、天使よりも早く生まれた冷たい石像のような天使が──どんなに造形が自分好みではないとしても、やはり姉の方も美しい少女が──目の前にいることが恨めしい。 「改めて紹介しよう。十歳を迎えた姉のアーベルティーヌと、もう間も無く七歳を迎える妹のエミリーティーヌだ。本来ならば同席させるのはどうかと思うのだが、『離れたくない』と駄々を捏ねられてしまってね」 「姉妹仲がよろしくてけっこうですな。我が家は男兄弟のためか五歳の差があるとはいえ、もう互いを好敵手(ライバル)と競い合っておりますよ」 「いやいや、それぐらいの気概がなければ、我が家の姫を守れないだろう」 「確かにうかうかしては、あっという間に隣に立つ権利を奪われてしまいますでしょう。そのためにもしっかりと教育を施す所存です」 「うむ……君のその姿勢には感心する。そういえばここにいても子供たちは退屈だろう。アーベルティーヌ」 「はい、お父様」 「フォルベリッド君を庭に案内してあげるがいい。失礼がないように」 「はい。こちらへどうぞ、フォルベリッド様。エミリー、参りますよ」 「はい、おねえちゃま!」 ニコニコと天使は姉の手に引かれてこちらに──こちらに来る! そのことに気を奪われ、フォルベリッドは声も出せずにコクコクと頷くだけだった。 そして気がつけば見えないひもで引っ張られるように少女たちの後をついて応接室から、緑と色とりどりの花が揺れる芝生の広がる庭へと導かれる。
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