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説明と罰 7
だがフォルベリッドは気付いていない──認めてもらえなければ確かに婚姻できないものの、認めてもらえるまで婚約を解消することが敵わないことも。
つまり、どうあってもこの二人は婚姻するしかなく、しかもそれは子を作れない年齢になろうとも結びつきは無くならないのだ。
「そう為らぬよう励め、と私は命じる」
「……はい」
「では、わたくしは本当にフォルベリッド様と婚姻できるのですねっ⁈」
約一名──まったく状況を、そして問題点を把握できていない者がいた。
きゃあと喜ぶエミリーティーヌを見て国王夫妻の後ろにいるアーベルティーヌは額を押さえ、同じようにヴィヴィエト侯爵夫人も同じ表情をする。
国王夫妻は苦笑いを浮かべ、フォルベリッドを含む他の面々は呆気にとられた顔で少女を見つめた。
「そうでしょう?ねえ、フォルベリッド様、お考えになって?わたくし、頑張ればフォルベリッド様のお嫁さんになれるの!頑張っている間、フォルベリッド様と婚約していて、お父様やお母様が他の方との婚約をお持ちになることはないのですわ!」
「なっ…そう、か…そうかぁ!」
否、理解していた。
理解してはいたが、物事の良い側面しか言葉にしていない。
悪い側面──たとえ老女になろうと、フォルベリッドは彼女を娶らねばならないということは、一切口にしていなかった。
だというのに、フォルベリッドもつられて明るい表情になり、理解したつもりになってまた嬉しそうにエミリーティーヌの手を取り、二人はうっとりと見つめ合う。
「……理解してもらえて、何よりだ」
年頃の少女らしい甲高い声ではしゃぐエミリーティーヌに少し疑わし気な目を向けたが、国王は鷹揚に頷いた。
ここからが本題である。
「……婚姻が成った暁にはパルトゥースより申請のあったバラス男爵家の復興と、パラトゥース伯爵家第二爵子フォルベリッドをその当主として封じることを認めよう」
「はっ。有り難く存じます」
「…………………えっ?」
パラトゥース伯爵は表情を改め、重々しく告げた国王陛下に頭を下げたが、キャッキャッとハートを撒き散らしていた若い二人はピタッと動きを止めた。
「どうした?」
「えっ?えっ?えっ?……で、でも、え?だ、だって、え?そ、それじゃあ、ヴィヴィエト侯爵家、は……?」
「うん?何故そなたが気にかける必要がある?」
「え?だ、だって、ヴィヴィエト侯爵家は令嬢だけで……アーベルティーヌは王太子殿下の婚約者…?で…え?で、でも、ぼ、僕はアーベルティーヌの夫になって……ヴィヴィエト侯爵になって……で、も、アーベルティーヌはいなくなって、エミリーティーヌが婚約者になって…だからヴィヴィエト侯爵家を継いで……?」
何を言っているのか自分でもわからなくなったのか、フォルベリッドの声はどんどん小さくなっていった。
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